トヨタの独走を許すな
北米国際自動車ショーが示す包囲網

 陰の主役はトヨタ自動車――。世界最大級の自動車の見本市、北米国際自動車ショーが1月9日に米ミシガン州デトロイトで開幕した。通常であれば、その主役は地元である米国のゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターが務めるところだが、今年は違った。トヨタの存在感がひときわ目立った。といっても、トヨタが特別に派手な演出をしたり、画期的な新車を発表したりしたわけではない。他社がトヨタを意識した行動に出たからだ。

 ハイブリッド車と若者ユーザーの掘り起こし。この2つが今回のモーターショーの大きな特徴だった。

「環境」での成功を各社が意識

 ハイブリッド車が話題になったのは、容易に想像がつく。今や日本以上に米国で人気が高いトヨタの「プリウス」。数カ月の納車待ちに加え、市場では値引きどころか希望小売価格よりも高く取引されるという逆転現象まで起きている。トヨタはこの成功によって、「環境のトヨタ」というブランドを確立することに成功した。

 競合各社は内心、この状況が面白くない。その結果、モーターショーでは、GMのリチャード・ワゴナー会長もフォードのウィリアム・フォード会長も今後のハイブリッド車や燃料電池車の投入計画を示しながら、懸命に技術的水準の高さをアピールした。そこからはトヨタを意識している姿が見て取れた。

 ただ、今回のショーで、ハイブリッド車に注目が集まるのは、当初から予想されたこと。むしろ意外性があったのは、若者の掘り起こしを狙う小型・中型車の発表が相次いだことだ。

 米国勢では、フォードが今夏に発売する20代後半から30代前半を狙った中型セダン「フュージョン」を発表。GMも小型車「サターン」ブランドの強化を宣言して、中型セダンとスポーツ車の2台を披露した。従来のサターンとは一線を画し、若者をターゲットとした斬新なデザインが特徴だ。

 一方、日本勢では、日産自動車が若者を狙ったクーペタイプのコンセプトカー「アズィール」を展示。同時に、2006年には「キューブ」あるいは「マーチ」クラスの小型車を米国市場に投入すると宣言した。2006年には、ホンダも「フィット」クラスの小型車を米国に投入することを決めている。

 クロスオーバーと呼ばれる乗用車感覚のSUVなど、比較的大型の車が人気を集める米国市場において、これだけ小型・中型車が話題に上ったのは近年の米国のモーターショーではなかったこと。そして、実はこの動きもトヨタの成功が刺激になっている。

 北米日産のマーク・マクナブ副社長は「顧客の年齢構成を考えると、主に移民を対象とした割安な小型車の投入が商品戦略上ますます重要になってきている」と語る。

 若者向け小型車も標的

 米国の自動車ユーザーで今後伸びが見込めるのは、主に2つの層と言われる。中南米などからの移民と、従来とは異なる消費性向を持つと言われる20歳前後のいわゆる「ジェネレーションY(Y世代)」である。いずれも大型のSUVなどを購入するだけの経済的なゆとりはなく、興味はエントリーカー(入門車)にある。

 この層の取り込みで早くから成功しているのが現代自動車などの韓国勢。そして最近では若者向けブランド「サイオン」を持つトヨタである。サイオンは、2004年6月に全米発売に踏み切って以来、ヒットが続いており、トヨタが米国市場で販売台数を2004年に前年比で約10%伸ばす原動力となった。各社が若者向けの小型車を出す背景には、サイオンの成功を放置できないという意識がある。

 トヨタの独走を許すな。今回のモーターショーを見る限り、米国ではそんなコンセンサスができつつある。これも強さの証しと言えるが、世界一を目指す企業が乗り越えなければならないハードルでもある。(ニューヨーク支局長 山川 龍雄)

日経ビジネス(2005-1-19)