西武グループに解体の危機、
膨大な含み益も枯渇へ

 有価証券報告書の過少記載問題に端を発した西武鉄道グループの激震が止まらない。だが、“パンドラの箱”は8カ月も前にこじ開けられていた。

 話は今年3月1日にさかのぼる。警視庁が商法違反(総会屋への利益供与)容疑で西武鉄道専務(当時)の伊倉誠一らを逮捕するとともに、西武鉄道本社などを家宅捜索し、国税当局さえ把握できないと言われたコクドを中核会社とする西武グループの全体像をひもとく関係資料をごっそり押収した。そして8月10日、東京地方裁判所は被告全員に有罪判決を下した。

 西武鉄道株を巡る動きが水面下で始まったのは、判決後間もなくのことだ。8月17日、コクドは保有する西武鉄道株のうち30万株を子会社の西武商事に売却。さらに23日には西武鉄道社長の小柳皓正が自社株式の売買をしないように取締役に注意喚起している。これに背き「コクドの指示」で株式売却に関与したとして常務の白柳敏行が辞任に追い込まれたが、これら一連の事象は、既にこの時点でコクドの持ち株の有価証券報告書への過少記載が問題化するとの情報をグループ首脳が認識していたことを物語っている。

 みずほが金融支援迫られる?

 もう1つ重要な動きがこの時期、起きている。8月30日、金融庁はみずほコーポレート銀行に対する2004年3月期決算の通常検査と2004年9月中間決算を対象にした特別検査に着手した。金融界では「コクドの経営悪化が深刻で、主力行のみずほが金融支援を迫られる」という観測が飛び交った。

 2004年3月期末の西武鉄道の連結有利子負債は8966億円、これにコクドの長短借入金3540億円を合算すると、ざっと1兆2500億円になる。西武鉄道は2004年3月期に261億円の連結フリーキャッシュフローがある。コクドについては財務諸表が非公表のため営業利益を目安とするしかないが、赤字続きで現金収支はマイナス。要するに、頼みは西武鉄道の261億円のみ。そうなると有利子負債の合計1兆2500億円はフリーキャッシュフローの48倍に相当する。借金漬けの現状は危機的と言える。

 西武グループには膨大な資産の含み益がある──世間にはまだこんなイメージがあるかもしれない。だが、もはや含み益も枯渇しつつある。これまで西武グループの信用力の源泉は、第1に4000万〜4500万坪というグループ保有の土地、第2にコクドが持つ西武鉄道株とされてきた。このうち土地の評価額はバブル期に12兆円とも言われたが、今や「1兆円にも届かない」(有力証券アナリスト)。「コクドの事業は赤字だらけで、ゴルフ場などを時価評価すると減損処理がかさんで大変なことになる」とコクドと取引関係がある信託銀行関係者は指摘する。

 グループの信用力を支えていたもう1つの源泉である西武鉄道株は、過少記載問題で上場廃止が取り沙汰されて以来、急落している。11月1日の株価終値は482円。コクドの持ち分(発行済み株式の48.6%)の時価総額は1015億円に減少した。グループの土地評価額とコクドの西武鉄道株の持ち分時価総額を合算しても、有利子負債の合計額には達しない。つまり「担保割れ」の危機に瀕しているわけだ。

 信用力が底を突きつつある中でデフォルト(債務不履行)を回避するには、資産を切り売りするしかない。10月25日、コクドは箱根仙石原プリンスホテル(神奈川県箱根町)を改修費含め約30億円で日産自動車に売却した。コクドがグループ外にホテルを売却するのは初めてのこと。西武グループの解体は既に始まっているようだ。=文中敬称略(特別取材班)

NIKKEI BP情報(2004-11-09)