ホンダ、コロナ逆風下で60年ぶり聖域改革


ホンダは新型コロナウイルスが猛威を振るった中国の湖北省武漢市に四輪車の合弁工場を構えており、ようやく11日に少量生産を再開した。同国各地での減産を3月いっぱいまでとしても、2021年3月期にかけて連結純利益ベースで500億円ほどの減益要因になりそう。それでも、複数の有力アナリストがホンダの株価格付けを最上位とする。逆風下で動き出した60年ぶりの構造改革に期待を寄せるからだ。

ホンダは4月1日付で、子会社の本田技術研究所から四輪車の開発部門を切り離し、ホンダ本体に移管する。1960年に自由な発想を求めて独立させた同研究所は、低公害エンジン、ヒト型自律ロボ「ASIMO(アシモ)」、ホンダジェットといった野心的なアイデアを形にしてきた。このタイミングで四輪車開発を本体に集約するのは、つながる車や自動運転など「CASE」技術をめぐり、開発スピードを上げるためだ。

アナリストらは組織再編が収益力向上への「ギアチェンジ」になる可能性があると受け止めた。クルマの機能は「走る・曲がる・止まる」にとどまらず、CASE対応などの電装品、ソフトウエアの塊になっている。研究所が設計と開発、本体が生産と販売という役割分担をめぐっては近年、別組織であるがゆえの意思疎通の食い違いや実務面の非効率も指摘されていた。

ふくらむ開発費は歯止めがかからない状況だ。今期の研究開発支出は8600億円と5年前から2割近く増え、売上高に占める割合は5.7%と同社が上限の目安とする6%に迫る。数年前までの拡大路線の反動もあって設備投資を抑えているが、四輪車事業の営業利益率は19年4〜12月期で3%と、トヨタ自動車の8%、スズキの7%などに見劣りする。

それだけに、「聖域」だった技術研究所にメスを入れる60年ぶりの改革に期待する市場関係者は少なくない。野村証券の桾本将隆アナリストは「従来は開発が別会社のため営業や製造の意見が反映されづらいケースがあったようだ。一体運営後は開発効率が上がり長期的に業績改善につながるだろう」と前向きに評価する。

ホンダは新しい四輪の共通骨格「ホンダアーキテクチャー」を20年に市場投入する主力車種から採用する秘策を進める。車種をまたいで車体や部品を共通にして原価を下げる取り組みで、トヨタ、独フォルクスワーゲンも採用する手法だ。市場では22年3月期には「年数百億円のコスト削減効果が期待できる」(国内証券アナリスト)との声もある。

「逆風下でのホンダの『変化』に着目する」。JPモルガン証券の岸本章アナリストはこう指摘し、来期は連結営業利益が今期会社予想比で11%増の8093億円、22年3月期には同26%増の9224億円に成長すると予想する。

コロナ禍への不安が覆う株式市場でホンダ株の11日終値は2508円に沈んでいるが、四輪事業の組織再編を「中期的に開発効率の改善に寄与する」と評価する岸本氏がはじいた20年末までの目標株価は3900円だ。

ホンダはケーヒンやショーワなど系列の3部品会社を20年中に日立製作所の自動車部品子会社と経営統合させ、21年には英工場を閉鎖して欧州での四輪車生産から撤退する。二輪車の開発は19年4月に本体に吸収済みで、八郷隆弘社長が「四輪車の体質を強化する」と宣言して着手した抜本改革は総仕上げに入っている。

こうした改革を通じて25年には四輪車の開発コストを30%減らし、その分を長期ビジョンの研究開発に充てる考えだ。「ホンダの将来を支える新技術を生み出す」(八郷社長)としており、次世代ロボット、空飛ぶクルマ、新エネルギー技術などが候補になる。

本業の収益力が上向き、それをホンダらしい未来への先行投資に回すサイクルを再加速できれば、株価にも中長期的な上値余地が生まれそうだ。

証券部 岡田達也

nikkei.com(2020-03-12)