ホンダ、新型肺炎が脅かすEVの未来


7日に2019年4〜12月期連結決算(国際会計基準)を発表するホンダが新型肺炎に脅かされている。操業を停止している中国湖北省武漢市にある四輪車工場は、停止期間を延長する可能性が高い。20年3月期通期業績を下押しする要因になるが、影響はこれだけにとどまらない。ホンダは武漢市から始まる「一帯一路」を軸とした成長シナリオを描いているからだ。


「長期戦だ。世界の工場でどの車種の生産がいつまで持つか部品在庫を洗い出せ」。ホンダでは、関係するあらゆる部署、サプライヤーが中国関連の情報収集に追われている。経営陣はもはや中国工場の早期再開にはこだわっていない。国内工場を含めた世界の生産網が受ける打撃を少しでも抑える対策を練り始めた。

武漢市には3つの四輪車工場を持つ。年産能力は計60万台でホンダの世界の生産能力の約1割を占める大型工場だが、14日にも計画していた稼働再開時期が一段と遅れそうだ。「うちも部品会社も武漢に入れず状況を把握し切れていない。再開しても工場に従業員が集まってくれるのか」。ホンダ幹部は気をもむ。

20年3月期の純利益は5750億円と前期比6%減る。円高やインドの景気悪化が響き減益を見込むが、中国の販売は年内まで好調が続いていた。

新型肺炎によるダメージはどの程度なのか。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一アナリストが持ち分法投資利益や固定費などから機会損失を試算したところ、武漢工場を1カ月停止すると純利益予想の4%に当たる約230億円の減益要因が発生する可能性があるという。広州市の四輪車工場、上海近郊の二輪車工場の生産停止も含めるとさらに大きくなる可能性がある。株価は肺炎まん延が表面化する前(1月20日)に比べ4%安く、日経平均株価(1%安)より下げ幅が大きい。

目先の業績以上に怖いのが中国がけん引する成長シナリオへの影響だ。

中国市場の19年の乗用車の新車販売は約2100万台と米国(1700万台)を超え世界最大だ。ホンダは155万台と過去最高を更新。乗用車の市場シェアは約7%あり、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)に次ぐ規模だ。その中国をより強くするための主軸が電動車だ。

特に武漢は19年4月に完成した第3工場でEV生産設備を導入。中国の電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)からリチウムイオン電池の供給を受ける体制も整えており、中国の電動車市場でVW、GMを追う重要拠点だ。

中国政府は、欧州との交易路シルクロードに沿って広域経済圏を構築する「一帯一路」を進めているが、ホンダも同様の戦略だ。「中国発の電動車を欧州に投入し、欧州でもう一度ホンダブランドの基盤をつくる」。八郷隆弘社長は中国は世界戦略の要と説明する。30年にはEVやハイブリッド車など電動車を世界販売の3分の2にする。18年は10分の1に満たず、簡単な挑戦では無い。

ホンダは四輪車を中心に生産や開発で非効率な点がある。今期の売上高営業利益率予想は4.6%と、6日に決算を発表したトヨタ自動車(8.5%)に後れを取る。背景には生産体制が日本や欧米、アジアなど各地域に分散し、共通モデルも作りにくく固定費がかさむことがあった。

今期の四輪車販売は497万台で4年ぶりに500万台を割る。日米欧、アジアがそろって減るが、中国だけは好調だ。その中国で大規模な生産や開発拠点を築ければ量と質の両方を高められ競争力はおのずと高まる。かつてない感染症はおそろしい事態だが、中国抜きではホンダの成長は成り立たない。途切れても立て直せるサプライチェーンを再構築するしかない。

証券部 岡田達也

nikkei.com(2020-02-07)