小型車減速、日本勢に逆風 相乗り普及で大型人気

ホンダ「フィット」米撤退 日産は新興国縮小


日本車メーカーが「お家芸」だった小型車分野で海外事業を縮小する。ホンダは2021年にも米国で小型車販売から撤退し東南アジアなどでは車種を減らす。日産自動車も新興国ブランドを縮小する。米市場の大型車シフトや新興国の所得水準の向上により小型車需要は頭打ちだ。電動化の流れも小型車には逆風になる。日本勢の得意分野で「選択と集中」が迫られている。

スペースが限られる小型車は部品配置などの設計が難しく、日本勢は技術力を背景に得意としてきた。英調査会社IHSマークイットによると19年の小型車の世界販売台数は2415万台で、日本勢が4割を占めた。新車全体に占める日本勢のシェアは3割のため、小型車に強みを持つことが分かる。

ただ、年率10%近い成長が続いてきた市場規模は10年以降、ほぼ横ばいで推移しており、今後も微増にとどまる見通しだ。成長が続く中大型車と比べても減速が鮮明だ。

ホンダは主力小型車「フィット」を刷新し、2月に日本で発売するが、米国や東南アジアでは投入を見送り、現行モデルの販売も21年に終える。

米国では小型の多目的スポーツ車(SUV)「HR-V(日本名ヴェゼル)」も21年の全面改良に合わせて大型化し、小型車をゼロにする。米市場はSUVやピックアップトラックなどが人気で、19年は市場全体の7割を占めた。ホンダの販売実績でもフィットは3万台、HR-Vは9万台にとどまった一方、中型SUV「CR-V」は38万台が売れた。

東南アジアを含む新興国では5つある小型車の基幹モデルを25年までに3つに集約する。リーマン・ショック後に期待された小型車市場の成長が想定ほどではなかったためだ。所得水準が向上し、「低価格帯の専用車を用意しても売れず、消費者は無理してでも大型車を買った」(IHSの川野義昭マネージャー)。

トヨタ自動車は19年に米国で販売した小型車「ヤリスハッチバック」をマツダからのOEM(相手先ブランドによる生産)供給に切り替え、米で販売する小型車の自社生産を終えた。マツダへの生産委託で効率を高める。

日産は自社での小型車開発を縮小し、提携先の仏ルノーや三菱自動車との協業で補う。小型車中心の新興国ブランド「ダットサン」ではロシアと東南アから撤退する。20年中にもロシアとインドネシアでの生産を中止し、販売も順次やめる。

米国や東南アジアではウーバーテクノロジーズやグラブなどによるライドシェアサービスが広がっているという事情もある。川野氏は「消費者にとって単なる移動はライドシェアで十分で、買うなら趣味性の強い高級車が選ばれる」と語る。

小型車から中大型車にシフトする背景には採算面の理由もある。ホンダの19年3月期の有価証券報告書によると、中大型車が中心となる「ライトトラック」の1台当たり粗利益は全車種平均から約35%高く、セダンや小型車が属する「パッセンジャーカー(乗用車)」は平均から約20%低い。

自動運転や電気自動車(EV)など「CASE」と呼ばれる次世代技術が実用化されると小型車はいっそう採算が悪化する可能性がある。自動ブレーキなどの安全支援機能や高価なバッテリーを搭載するためコストは膨らむが、利幅が限られる小型車ではコスト上昇分を吸収しにくいからだ。

■事業選別、米国勢に後れ 環境対策へ電動化急ぐ

小型車は一般的に燃費がよく二酸化炭素(CO2)排出量が少ない。各社は環境規制に対応する必要にも迫られており、中大型車の強化と同時に電動化も進める。トヨタは25年までに世界販売の半数を、ホンダは30年までに3分の2を電動車にする方針だ。ホンダは20年に米国でホンダブランドとしてSUVに初のハイブリッド車(HV)を設定する。

「選択と集中」で先行するのは米国勢だ。フォード・モーターは20年メドに北米でセダン系車種の販売から撤退する方針だ。ゼネラル・モーターズ(GM)も米でセダン系車種の工場閉鎖を決めた。

日本勢は小型車の需要が根強い国内では引き続き販売を強化する。トヨタとホンダ、日産の3社は20年にそれぞれ主力車を全面改良する。地域ごとに特徴のある車種を売る方針だ。

最大市場中国の失速など世界の自動車市場は減速感が強まる。生き残りに向け、事業を選別する動きが進むなか、日本勢が思い切った選択を迫られる可能性もある。
(古川慶一、藤岡昂)

▼小型車 自動車は全長によりAからFの6段階で分類される。3.8メートル以下がAセグメントになり日本の軽自動車がここに入る。4.2メートル以下のコンパクトカーがBセグメントでホンダ「フィット」などが分類される。A・Bセグメントが一般的に小型車とされる。ホンダ「シビック」などはCセグメントになる。

nikkei.com(2020-01-12)