ホンダ、初の量産EV発進へ 先進性で巻き返し

ホンダが電動車戦略に本腰を入れる。量産型で初の電気自動車(EV)「ホンダ e」の受注を始めた。これまでハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)に注力してきた。後手を踏んだEVで反転攻勢に向けて、独フランクフルト国際自動車ショーで市販モデルを公開した。コネクテッド分野でデジタル技術を駆使し、先進性を訴える。

「ホンダだけが開発できたユニークなEVだ」。フランクフルトのショーでホンダ欧州法人の井上勝史社長は「ホンダ e」を自信を込めて送り出した。丸目のヘッドランプ、愛くるしいデザイン。ホンダ初の軽自動車「N360」から引き継がれる伝統デザインだ。

中身はまったく異なる。井上社長がセールスポイントとして訴えたのが、「ダイナミックな走行性能」と「新次元のコネクティビティ」。

まずは走行性能。パナソニック製の容量35.5キロワット時のリチウムイオン電池を搭載する。1回の充電での航続距離は最大220キロメートルを想定する。電池を車両床に平たく配置する。重心を地面から50センチメートルと低くし、安定性がある走りを実現した。前輪と後輪にかかる重量が均等のバランスとなるよう設計した。

「ホンダ e」は日本の寄居工場(埼玉県寄居町)で生産し、2020年夏にも欧州での納車が始まる。初の量産モデルだけあって、新技術をフル装備したEVだ。今年9月上旬で既に欧州で4万超の受注があるという。ただ、どれだけ販売を伸ばせるかは未知数だ。

価格は最高出力が100キロワットのタイプでドイツなら補助金込みで2万9470ユーロ(約350万円)。「ホンダ e」は日産自動車のEV「リーフ」などと違い、スポーツ車に多い後輪駆動とする。進路を左右する前輪との役割を分けており、モーターの力をしっかり伝えられる。最小の回転半径については4.3メートルにし、軽自動車「N-BOX」よりも小回りが利く。都市部で扱いやすさを重視した。

コネクテッド技術も充実させた。「デジタルダッシュボード」と呼び、インストルメントパネル全面に5画面のディスプレーを備えている。中心部にある12.3インチの2つのスクリーンは、スマートフォンと同じようにタッチ操作で様々な情報を表示することができる。

「ホンダ e」は通常のドアミラーがない。カメラで後方の映像を撮影する「デジタルアウターミラー」をホンダ車で初採用する。ドライバーはディスプレーで状況を確認する。ミラーがコンパクトになり、走行時の空気抵抗を抑えられる。水滴が付着しにくく降雨時でも視界を保てる。

「ホンダ e」ではドライバーがスマホの専用アプリを使って離れた場所からでも車両を操作できる。バッテリーの充電状況を確認したり、ロックなどのセキュリティー管理やエアコンを調整したりできる。

「ホンダ e」は人工知能(AI)による「ホンダ・パーソナル・アシスタント」を備える。例えば、運転手が「OK、ホンダ」などと呼びかけるとクルマ側が反応し、音声で様々な指示ができる。AIに学習機能を持たせており、対話を重ねることで音声認識の精度を高めて、レスポンシビリティー(反応性)も向上する。

「ホンダ e」は、車台(プラットホーム)にとどまらず、先進性を最大限に発揮できる仕様にした。ホンダは2030年までに世界販売の3分の2(約65%)を電動車にする方針を掲げる。欧州では21年メドにディーゼル車の販売から撤退する。 苦戦する四輪事業の立て直しも急がれる今、「ホンダ e」は大きな期待を担ってスタートラインに立つ。

「ホンダ e」は後発にもかかわらず、航続距離は220キロメートル。欧州のEV販売で首位争いをする日産自動車の「リーフ」やルノーの「ゾエ」は300キロメートルを優に超える。電池量をあえて抑えたうえで、実用性を犠牲にした以上の先進性を訴える狙いだ。

もっとも、ホンダにとって「ホンダ e」はEVレース参戦への布石だ。7月の技術説明会「ホンダミーティング」で、EV用の新しいプラットホームを公開した。セダンや多目的スポーツ車(SUV)など幅広い車種で使えるよう共通化して、22年ごろの実用化を探る。

EV市場は先行きを含めて混沌とする。ホンダはバッテリーも中国の寧徳時代新能源科技(CATL)などから大量調達し、コスト面での競争を勝ち抜く。普及期を迎え、スピード勝負が生命線になっていく。

(企業報道部 古川慶一)

                [日経産業新聞 2019年10月2日付]

nikkei.com(2019-10-07)