ホンダ、要の二輪に迫る影 成功モデルさらに改革

四輪事業が不振のホンダをいま支えるのは祖業の二輪だ。アジアに強みを持ち世界シェアはトップ。四輪とは違い、規模の拡大と効率化を両立させて高収益を維持している。その二輪でも伝統を壊す組織改革に着手した。海外メーカーの影が迫っているからだ。


阿蘇山に臨む熊本製作所(熊本県大津町)。国内唯一の二輪生産拠点だ。1万平方メートル超の間仕切りのないオフィスで、生産、開発、購買など約700人の社員が働く。一角には開発中のテスト機が並び、部門の垣根を越えた「立ち話」がそこここで繰り広げられる。

開発は子会社の本田技術研究所、生産は本体と分けてきたホンダではこれまでなかった光景だ。

熊本製作所では、埼玉県にあった研究所の開発機能の一部を2010年から順次移転。埼玉から熊本に一日かけて出張しても解決しきれなかった課題が「今はすぐ連携して対応できる」(商品開発部の森田健二氏)。17年にはホンダでは初の部品メーカーとの協力組織「ホンダ二輪ものづくり共創会」も発足した。


熊本を先駆けに、四輪でも本体と研究所の社員が机を並べる「ワンフロア拠点」が広がる。今年4月には東京・赤坂や栃木県の拠点で導入した。

事業所の運営モデルだけではない。いまや業績面でもホンダのけん引役は二輪だ。19年3月期の世界販売は初めて2千万台を超えた。世界シェアも4割近い。連結売上高は2兆1001億円と四輪の5分の1ながら、営業利益は2916億円と四輪を上回る。

四輪と共に拡大を打ち出した12年からの6年間で販売台数は3割増えた。同時に売上高営業利益率は13.9%まで5.7ポイント高めた。部門連携が機能し「拡大と効率化」を両立したことが大きい。

二輪の開発トップ、野村欣滋執行役員は「ものづくりをシンプルにしてコスト競争力を磨いてきた」と語る。原点は創業者の本田宗一郎氏が開発を主導した「スーパーカブ」だ。低価格ながら使い勝手や燃費に優れ、アジアでも人気だ。

今年4月、「ワンフロア拠点」からさらに歩を進める組織改革に踏み切った。研究所の二輪部門全体をホンダ本体に統合した。別会社の時代には、それぞれが同じ金型を作ったり上司の判断を仰いだりしていた。研究の独自性は薄れかねないが効率化を優先した。

背中を押したのが同業他社の動きだ。印大手のバジャジ・オートは英トライアンフと、印TVSモーターは独BMWと相次ぎ提携。ブランド力のある欧州メーカーがインド勢の安価な生産システムを活用して世界市場で販売を伸ばしている。

インド勢の世界シェアは合計でまだ3割弱だが18年の販売台数は前年比17%増えた。かつてホンダが短期間で世界首位に上り詰めた姿と重なる。「今度は逆にやられる立場になりかねない」(野村執行役員)

投資額が小さく機敏な経営判断がしやすい二輪はホンダのベンチャー精神を体現している。ただ、四輪に比べ構造が簡単なため参入ハードルは低い。電動化による競争構造の変化も既に現実のものになっている。かつての最大市場、中国では自転車を改造したような電動二輪が普及し、ガソリン車の市場規模は10年前の半分以下となった。

東南アジアやインドでは電動二輪ベンチャーがしのぎを削る。台湾のゴゴロは事業モデル作りで先行する。街中に専用ステーションを置き、充電済み電池と交換できるようにして待ち時間なく走れるようにした。18年には日本にも参入した。ホンダは今夏、インドネシアで電池をシェアする実験を始めたばかりだ。

二輪での優位が崩れると影響は足元の業績悪化にとどまらない。二輪を「先兵」として海外でもブランドを確立し、四輪など他の製品も売り込むのがホンダの成功パターンだからだ。全製品合計の販売台数は今や3200万台を超える。ライバルにはない顧客基盤を生かして成長軌道を取り戻せるか、改革のアクセルの踏みこみ所だ。

■八郷社長「進化の道筋つける」


八郷隆弘社長に四輪事業も含め改革全体の狙いと手応えを聞いた。

――自ら縮小路線にカジを切っています。

「世界の余剰生産能力削減に手を打たないと競争力は保てない。やめる決断は難しいが『CASE』など次世代技術への投資が本格化する前にやる必要があった。生産適正化はある程度の道筋はできた。ただ米国も中国も市場環境は不透明だ。インドは厳しい。この先も対応は考えていく」

――縮小路線の先に四輪事業は上向きますか。

「開発も変える。これは正直難しい。デジタル化で従来とはスピード感が違う。99%の失敗を許容しても挑戦するのがホンダの土壌だ。今春、従来の開発とは完全に切り分けた『先進技術研究所』を新設した。軌道に乗せてチャレンジングな商品を出す。それが本当の意味での四輪強化だ」

「成長期を振り返りながら、進化の道筋をつけるのが私の務めだ。生産だけでなく開発、販売、技術開発の方向性もしっかりと土台をつくる。絶対に変えないのは『移動と暮らしで世の中の人々に喜んでもらう精神』だ。ここは守りぬく」

――アライアンス(提携)も活発になります。

「ホンダがやる所と外部と協調する所は分けている。組める分野はウィンウィンであれば積極的にやっていきたい。ただ、他の自動車メーカーと資本提携することは全く考えていない」

古川慶一が担当しました。

nikkei.com(2019-09-05)