ホンダ、生き残りへ脱・鎖国 次世代車対応で提携20件


単独主義を美徳として外部との連携に距離を置いてきたホンダが「脱・鎖国」に進み始めた。15年に就任した八郷隆弘社長の体制下で発表した提携案件は20を超える。自動運転や電動化といった大きなうねりに、単独で対応するのは難しいからだ。ただ、合従連衡に動く世界の中堅企業とは一線を画す。経営面ではあくまで独立を維持したい考えだ。

「あとはホンダがどうするかだな」。トヨタとスズキの資本提携発表を受け、ある業界関係者は語った。国内の自動車大手はトヨタ、日産自動車、ホンダの3陣営への集約が鮮明になったが、陣営と言ってもホンダには資本面のパートナーはいないからだ。

「二人三脚は遅い方に合わせるから遅い。能力あるやつが1人で走るのが一番速いんだ」。ホンダ創業者、本田宗一郎氏は他社との提携についてこんな言葉を残した。1980年代に英国の自動車会社に出資して失敗したのも資本提携のタブー視につながった。

資本も技術も自前にこだわる「鎖国主義」には変化もある。最近は技術面では積極的に外部と組むようになってきた。


3月上旬、茨城県内のテストコース。カメラやセンサー類を大量に積んだホンダの主力車「アコード」が走り回っていた。コースの所有者は中国の人工知能(AI)有力企業、センスタイムだ。「他社の技術者とは話すことさえはばかられた」(ホンダ社員)時代にはあり得なかった光景だ。

14年創業のセンスタイムはAIを使った画像認識技術を監視カメラ向けで磨き、近年は自動運転にも応用を進める。街を行き交う車両や歩行者の性別や年代、かばんの有無も認識し、次にどう動くかを予測する。同社の企業価値は45億ドル(約5千億円)超とされ、中国最大のAIユニコーン(企業価値10億ドル超の非上場企業)とされる。

センスタイムが組む自動車メーカーは約20社にのぼるが、中でもホンダとは早い時期からのつきあいだ。ホンダには「技術の前では平等」という考え方があり「スタートアップにも対等に接してくれる」とセンスタイムの労世●(たつへんに紘のつくり)日本法人社長は語る。

ホンダが「脱・鎖国」を進めるのは、つながる車や電動化など「CASE」と呼ばれる次世代技術の開発には巨額の費用や手間がかかるからだ。20年3月期のホンダの研究開発費は8600億円。連結売上高に占める比率は5.5%と、日本の自動車メーカーでは高水準だが海外企業には見劣りがする。絶対額での差はさらに大きい。自前主義には限界がある。

燃料電池車で提携する米ゼネラル・モーターズ(GM)とも関係を深めている。18年10月にはGM傘下で自動運転技術を開発するGMクルーズに850億円規模を出資した。ホンダの外部出資では過去最大級だ。事業資金も一部を提供し、無人タクシーを共同で開発する。

かつては販売台数の拡大を優先するあまり新技術への対応には出遅れ感があったが、分野によっては巻き返しつつある。20年には一定の条件付きで自動運転が可能になる「レベル3」を渋滞時の高速道路で実現させる。国内勢では初めてだ。センスタイムなどとの共同研究をてこに、25年にはより高度な技術が必要な一般道での「レベル4」を目指す。 CASEの波を前に合従連衡を模索するのは世界の中堅自動車メーカーに共通する姿勢だ。

ホンダと販売台数が同規模の米フォード・モータは19年に入り、世界最大手の独フォルクスワーゲン(VW)とEVや自動運転で提携を拡大した。欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は今春、仏ルノーに統合を提案。いったんは破談となったがなお意欲があるとされる。

それでも八郷社長は「他の自動車メーカーと資本を持ち合う考えはまったくない」と明言する。ホンダのアライアンス戦略を担う本田技術研究所の三部敏宏社長は「提携は手段。ホンダが描く社会の実現を早められるなら組む」と説明する。あくまで資本の独立は維持し、必要な技術やノウハウの獲得のためには外部と組むという考えだ。 ただ、トヨタ自動車やVWがいま提携先を広げる狙いは技術の獲得にとどまらない。新サービスにつながる膨大な走行データの確保や、技術標準を巡る攻防が念頭にある。いずれも完成車の販売規模がモノを言う。ホンダは規模の後ろ盾なしに独立を維持できるのか。「脱・鎖国」の成否はまだ見えない。

nikkei.com(2019-09-04)