CASEが変える産業社会/クルマの未来 “新”モビリティー社会

MaaS・電動車の普及

 CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)と呼ばれる自動車産業の新潮流をチャンスと捉え、政府は自動車新時代戦略会議で日本の社会課題を解決するための戦略を打ち出した。MaaS(乗り物のサービス化)の社会実装や電動車の普及拡大がその中核だ。移動弱者ゼロや環境負荷低減を実現する新たなモビリティー社会の確立に向け、官民を挙げた挑戦が始まった。

 「車と社会の融合を目指し、企業と自治体の協調的な取り組みを後押ししたい」(世耕弘成経済産業相)。経産省と国土交通省は6月、MaaSの社会実装に向けたプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を始めた。全国の自治体が民間企業と連携し「自家用車中心中規模都市」「郊外・過疎地」といった地域特性に合わせ、MaaSの実証実験を行う。各地域の実証成果は広く共有し、MaaSの全国普及につなげる。

 東日本大震災で被災した福島県浪江町、南相馬市は同プロジェクトに参加する自治体の一角だ。民間企業と連携し、自動走行やオンデマンド交通、配送ロボットの実証を行うほか、複数の交通手段を一括で予約・決済できるプラットフォームを構築する。震災による生活環境の地盤沈下や交通機関の運転手不足が深刻化しており、MaaSの導入で避難先からの帰還住民や観光客らの移動手段を確保する。新規定住人口の拡大を目指す。

 一方、環境負荷低減に向け、経産省は2050年に日系メーカーの新車販売を電気自動車(EV)など全て電動車にする目標数値を公表。これにより自動車1台当たりの温室効果ガス排出量を10年比で8割削減することを目指す。電動車を“動く蓄電池”として活用し、災害時の電力供給源など新たなエネルギーインフラとして活用する構想も掲げる。 ただ、国内ではEVの普及があまり進んでいない。最大の理由は電池にあり、価格の高さと航続距離の短さから消費者がEVを敬遠している。さらに中古電池の残存価値が依然として定まっておらず、消費者がEVを下取りに出しても高く売れないと考え、購入に二の足を踏むケースも見られる。

 このため政府は従来から行ってきた電池の技術革新支援に加え、中古電池の性能評価の仕組みづくりを進めることにした。経産省主導で発足した官民協議会「電動車活用社会推進協議会」内に自動車関連企業が参加するワーキンググループを近く発足し、議論を始める。中古電池の価値を明確に示すことで、中古EVの価格が定まり、新車EVの購入意欲が高まる。産業用蓄電池など車載以外の用途が広がれば中古EVのさらなる価値向上が期待できる。

 日本は足元で高齢ドライバーによる重大事故や豪雨災害が増加傾向にあり、移動弱者ゼロと環境負荷低減は待ったなしの状況だ。特に高齢化は日本が世界に先駆け直面している社会課題といえる。課題先進国として一連の取り組みで成果を出せるか。日本が果たすべき役割は大きい。

nikkan.co.jp(2019-08-15)