ホンダ、北米で抱えるジレンマ 在庫・奨励金も急増

ホンダの四輪事業が試練に直面する。苦戦の元凶ともいえるのが北米事業だ。製品ラインアップが広がり、生産・販売が非効率となり身動きがとれない。セダン離れも痛手となっており、減産と販売縮小で在庫解消を急ぐ。「ドル箱」だったビジネスをどう挽回するのか。劣勢を跳ね返そうにもジレンマに苦しむ。


様々なモデルを生産し柔軟性を高めたが……。8日の事業方針説明会で、八郷隆弘社長は北米事業の厳しさを打ち明けた。四輪事業は拡大路線の反動が尾を引き、収益力が上がらない。2020年3月期の四輪事業の売上高営業利益率は1.9%にとどまる。金融事業と合わせても3.3%だ。

19年3月期のホンダの米国販売は161万台。前の期から1.6%減っても、中国(146万台)をまだ上回る。北米の所在地別の営業利益率(二輪なども含む)は3.3%で、「ゴーン体制」からの脱却を進める日産自動車(1.2%)には勝る。

■セダン離れで苦戦

ただ、八方ふさがりの状態から抜け出せない。値引きの原資となる販売奨励金(インセンティブ)が急増しているのだ。米ALGによると、19年1〜3月平均のインセンティブは、2273ドルと前年同期より2割近く上昇した。ライバルと比べ際立つ水準。

「セダン離れ」が背景にある。17年秋に「アコード」を5年ぶりに全面改良。オハイオ州の工場に300億円を投じ量産体制を整えたが、販売は伸び悩んでいる。

ホンダは中古車などの値崩れ、ブランド価値の低下を防ぐため、伝統的にインセンティブに頼らない販売策を重視する。直近こそ上昇しているが、業界平均(3595ドル)、トヨタ自動車(2318ドル)より低水準に抑えている。

■増える市場在庫

悩ましいのがインセンティブを抑えるあまり、市場在庫が増えていることだ。JPモルガン証券のリポートによればホンダの3月の在庫日数は78日。トヨタ(58日)や日産自動車(56日)を上回る。

ホンダは「アコード」などを組み立てるオハイオ州のメアリズビル工場で8月から減産に踏み切る。セダンを中心に年間で10万台相当の生産を減らす。

20年3月期の北米販売は187万5千台と4%減る。車種を減らし、工場をまたいだ頻繁な生産車の移管も見直す。市場変化に対応する目的だったが「場当たり的」との指摘もあり、コスト増を招いた。

ホンダはリーマン・ショック前の08年3月期に、北米の四輪売上高(仕向け地別)が5兆2094億円と全体の5割を超えた。

もっとも、世界第2の自動車大国である米国市場が踊り場にある。失業率が低く、労務費上昇や熟練者不足といったリスクも浮上する。米ゼネラル・モーターズ(GM)が工場閉鎖を進めるなど各社とも大胆な戦略に踏み込む。ホンダの改革も、スピード感がなにより求められる。

■中堅の「割り切り」も

ホンダの八郷隆弘社長は8日の事業方針説明会で新たな設計思想「ホンダ アーキテクチャー」を、2020年発売予定の主力車「シビック」から導入することを明らかにした。

自動車の基本骨格や部品を車種をまたいで共通化していく。日本勢ではトヨタ自動車が2015年発売の「プリウス」から実用化している。ライバルと比べても、攻勢に転じる戦略としては、ものたりなさがある。

注目したいのが、八郷社長がホンダ アーキテクチャーのなかで、「内装など車の個性を担う部分を強化する」と説明したこと。ホンダは米ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発する無人ライドシェア車両でも、内外装といった領域を担当する。

自前主義を貫いてきたホンダ。ただ次世代車の開発を巡っては、すべてを自前でこなすのは限界。「らしさ」を取捨選択し、新たな価値を深掘りする動きは、世界の中堅メーカーとして「割り切り」を示しているといえるだろう。

八郷社長は四輪事業の収益改善について、「改革は7合目」とした。ただ、改革に終わりはなく、その先に待つ競争を勝ち抜けるかが重要になる。それだけに、どれだけ割り切れるか。ホンダの覚悟が問われる。

(企業報道部 古川慶一)

日経産業新聞(2019-05-28)