利益率1.9% ホンダ、儲からない四輪に危機感


 ホンダの八郷隆弘社長は5月8日、記者会見を開き、四輪事業の今後の方向性について説明した。決算説明会に合わせて、八郷社長が四輪事業について自ら語るというのは2015年の社長就任から初めてのこと。それだけ四輪事業を巡る環境の変化に危機感を高めているともいえる。自動車各社が「CASE(つながる、自動運転、シェアリング、電動化)」の対応で、研究開発費の積み増しを迫られるなか、ホンダの四輪車事業の売上高営業利益率は19年3月期実績で1.9%と低収益にあえぐ。ホンダならではの尖ったモノ作りを続けながら、CASEの大波を乗り切るのは容易ではない。

 「必要以上の地域ニーズへの対応を進めた結果、効率が落ちてきた」。八郷社長は四輪事業の現状についてこう述べた。19年3月期のホンダの四輪車販売台数は前の期比2%増の532万3000台、四輪事業の売上高も2%増の11兆2877億円だったにも関わらず、営業利益は44%減の2096億円にとどまった。背景にあるのが、「シビック」や「アコード」といった世界戦略車での派生車種の増加と、北米専用のSUV(多目的スポーツ車)「パイロット」や中国向けセダン「クライダー」といった地域専用車種の増加だ。

 ホンダは世界の各地域での販売を伸ばす狙いで地域専用モデルを投入してきた。しかし、世界戦略車に比べ、生産や開発の効率は必ずしもよくない。日本専用の規格「軽自動車」として作っている「N-BOX」は2018年度に約24万台を販売し、日本国内で最も売れた車種だった。しかし、世界で500万台を超える自動車を販売するホンダにとって、24万台というのはわずか5%弱。そんな車種を専用で開発し、生産するよりも、世界共通で販売できるクルマを開発、生産したほうが効率は高い。その世界戦略車も派生モデルが増えすぎて生産や開発、販売の効率が悪くなってしまっていた。

 「営業と開発の双方に原因がある」。4月1日から四輪事業本部長を担う倉石誠司副社長は派生車や地域専用モデルが増えてきた状況をこう解説する。営業は売るためにできるだけ多くのモデルを欲しがる。そこにホンダならではの開発側の事情も加わった。ホンダは売上高の一定比率を独立した研究開発組織である本田技術研究所に委託研究費として支払い、研究所が描いた設計図面を買っている。設計図面が多ければ、それは研究所の成果となり、車種が増える一因となっていたというわけだ。

 こうした状況の解消を狙ったのが今回の動きといえる。さらに量産車の開発や部品の共有を進める「ホンダ アーキテクチャー」で開発した車種を20年以降投入していく考えだ。しかし、すでにトヨタ自動車や独フォルクスワーゲンは共通仕様による車両設計で先行しており、ホンダの動きは決して先進的とはいえない。

 ホンダは今回打ち出した四輪事業の体質強化により、25年までに既存ビジネスを盤石にしたい考え。「世界販売600万台」を掲げたが、品質問題に追われた伊東孝紳前社長時代の反省から新しいホンダの姿を作ろうとしてきた八郷現体制。改革の進捗は「私の感覚では7合目くらい」と八郷社長は話すが、決算数字から見える今のホンダが登らねばならない山はもっと高いようにも思える。

《追記》
☆本田技研工業情報 「事業方針説明会見 代表取締役社長 八郷 隆弘 スピーチ内容」ここをクリック

business.nikkei.com.(2019-05-09)