ホンダとソフトバンクのIoTバイク、宮古島で発進

通信機能を備えた自動車に「コネクテッドカー」が増え始めている。この流れは二輪車(バイク)の世界にも広がりつつある。カレンスタイル(東京・千代田)が3月6日に沖縄県宮古島市で始めたレンタルバイクサービス「宮古カレン」はその先駆けとなりそうだ。


貸し出すのはホンダの電動バイク「PCX ELECTRIC」。これにはソフトバンクの通信モジュールが搭載されている。PCX ELECTRICは排気量125cc相当で2人乗りが可能。運転には原付き二種免許以上が必要となる。レンタル料金は保険料などを含め1日税込み1万2960円。ヘルメットとグローブが2人分付属する。

貸出場所は宮古島市内のホテル。飲食店や土産物店などの島内16カ所にバッテリー交換所が設置されている。バイクのバッテリー充電には4〜6時間かかるため、バッテリー残量が少なくなったら充電済みのバッテリーと交換してバイクに乗り続ける仕組みにした。PCX ELECTRICは時速60キロで41キロメートルの航続が可能というが、実際には傾斜があるため、そこまで乗り続けるのは難しい。

宮古島で電動バイクのレンタル事業を始めた理由を、ホンダの関係者は「バイクの免許を持っているのは、若いころにバイクに乗っていた50代以上が中心になりつつある。宮古島はファミリー層よりも、50代以上の男女の組み合わせの旅行客が多い。久々に2人乗りでバイクに乗るきっかけに電動二輪車はうってつけ」と説明する。また電動二輪車は走行音が静かなので、会話もしやすいメリットもあるという。カレンスタイルの松良文子社長は「宮古島はサンゴでできた美しい島であり、環境負荷の少ない電動二輪車で事業を提供したかった」と語る。

では通信モジュールを搭載するメリットはどこにあるのだろうか。バイクの位置情報や走行距離、速度、バッテリー残量などのデータをリアルタイムにクラウドで収集、分析するためだ。例えばバッテリーが切れて走れなくなっても、全地球測位システム(GPS)と通信機能を組み合わせることで場所を特定。バイクを回収できるというわけだ。また転倒検知機能を利用し、転倒してけがをしても通信機能を経由して、センターに助けを求めることも可能だという。

ホンダには、実際にユーザーが電動バイクを使っているかを知る目的がある。例えばどれくらいの速度で、1回の走行ごとにどれくらいの時間乗っているか、どれくらいの残量になったらバッテリーを交換するかなどを収集できるというわけだ。「PCX ELECTRICはモーター出力や航続距離など、あらゆるニーズを満たせるよう、最高のスペックで造っている。ユーザーの実際の利用状況を把握できれば、出力を下げるとかバッテリーの容量を小さくするなど、下げてよいスペックがみえてくる。コストを下げて競争力を高められる」(ホンダの開発担当者)というわけだ。

PCX ELECTRICは一般向けの販売はなく、法人や官公庁などに向けたリース専用車となっている。このため価格は直接比較できないが、ホンダが手がける排気量125ccの一般的なバイクより高価なはず。いかにコストを下げるかが課題だ。「電動バイクは日本だけでなく、東南アジアを意識して開発している。特にインドネシアは産油国にもかかわらず、精油技術に乏しく、ガソリンを輸入していてガソリン代が高い。電動バイクをインドネシアに加えてもう2〜3カ国で展開できればと考えている」(ホンダの担当者)

一方、ソフトバンクはあらゆるモノがネットにつながる「IoT」や、次世代通信規格「5G」が当然となる時代を見越し、コネクテッドカーやバイクの世界で存在感を高めておきたいわけだ。このため通信回線を提供するだけでなく、集めたデータを分析するなどの機能を備えた「IoTプラットフォーム」を売り出している。回線とクラウドサービスをセットにして差別化を図るねらいだ。

ソフトバンクはトヨタ自動車と新会社「モネ・テクノロジーズ」を設立し、新しいモビリティーサービスの構築を目指している。例えば愛知県豊田市と業務連携協定を結び、ライドシェアサービスなどの実証実験を実施する。こうした提携を年内に20の自治体と実施する計画だ。

一方でトヨタ自動車は5GではNTTドコモと協業を発表。また2019年に提供する自動車の通信機能ではKDDIを選んでいる。ソフトバンクはコネクテッドカーやバイクにおいて、他社の後じんを拝しないために、今回のサービスに参加して実績をつくっておく狙いがあるのだろう。

<< ITジャーナリスト 石川 温 >>

《追記》
☆本田技研工業情報 「宮古島での電動二輪車「PCX ELECTRIC」レンタルサービスについて」 ここをクリック

nikkei.com(2019-03-08)