ホンダ・GM提携、自動運転車の競争を加速

自動運転車の開発競争においては、一番乗りした者が勝者になるとは限らない。

米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のGMクルーズホールディングスは3日、ホンダから7億5000万ドルの出資を受け、GMは自動運転技術の開発でリードする自動車メーカーであると自ら主張しやすい立場に立った。今後12年でホンダから27億5000万ドルの事業資金提供を受ける予定だ。5月にはソフトバンクが22億5000万ドルの出資を発表している。

自動車メーカー、技術提供者、スタートアップ企業などによる自動運転技術の開発プロジェクトは多々あるが、公共サービスとして本格稼働したものはまだひとつもない。自動運転車の開発競争でどの企業が優位に立っているか判断するのが非常に難しいわけだ。

GMのダン・アマン社長は3日、「現在の状況をスタートラインに立つための競争とみている」と話した。

現在、大手製造業の大多数が自動運転車の開発に取り組んでいる。この技術は交通死亡事故を減らすだけでなく、「ロボタクシー」の配車サービスなど新しいビジネスモデルの誕生にもつながる。

トヨタ自動車は4日、自動運転車を使って輸送・配送サービスを提供するため、ソフトバンクと提携すると発表した。

この先5年、多くの自動運転関連企業がサービスの開始を予定している。GMが自動運転車のサービスを2019年に始めると発表する一方で、トヨタは2020年の東京五輪にロボタクシーを間に合わせたいとしている。米フォードは2021年、仏ルノーは2022年までに自動運転車の実用化を目指す。スウェーデンのボルボ・カーは、2025年までに全販売台数の3分の1に自動運転技術を搭載する計画だ。

米アルファベット(グーグルの親会社)傘下の自動運転技術開発会社ウェイモはしばしば自動運転分野のけん引役と評される。同社は900万マイル(約1,400万キロメートル)のテスト走行を達成、競合他社の実績をはるかに上回る。既に昨年から自動運転車を使ったタクシーの試験サービスを将来的な顧客を対象に始めている。

同社は米国の計25都市で公道走行実験を実施しているが、商用化が実現しているのはアリゾナ州フェニックスのみ。同市より道路事情や天候が悪く、渋滞が多い都市の中心部で広範囲な実験を行うのは難しい。

GMが走行実験を行うサンフランシスコのような大都市は、フェニックスに比べて運転環境が複雑だ。路上で車が徐行する頻度が高く、フェニックスのように高速道路のスピードで走ることは少ない。

GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は3日、「自動運転技術を進歩、発展させるには、いちばん難しい問題から解決するのが最善の方法だと考えている」と話した。

■あえて厳しい環境で実験

いくつかの企業は、あえて運転が難しい環境で走行実験を行うことで、より速く自動運転車に「学習」させようとしている。一例が、ウェイモの元幹部であるクリス・アームソン氏が立ち上げた米オーロラだ。同社は独フォルクスワーゲン(VW)、韓国の現代自動車、中国の電気自動車ベンチャーのバイトンと提携している。

例は他にもある。独BMW、アウディ、メルセデス・ベンツが最近相次いで中国で走行実験を開始したのには、混沌としがちな同国の高速道路で自動運転技術を試す目的もある。

複数の自動車メーカーが使用する米デトロイト近郊の無人車両走行実験施設は、橋の上で正面からの強い太陽光が搭載カメラを幻惑する状況など、自動運転車の限界性能を試すための仕掛けを備えている。

どの企業が開発競争で優位に立っているかを判定するためには、公道実験が許可されているカリフォルニア州で、自動運転車の運転席に座る「セーフティードライバー」と呼ばれる運転手が走行中にどの程度の頻度で手動運転に切り替えたかを示す数値がよく注目される。

直近のカリフォルニア州車両管理局(DMV)年間データによると、ウェイモは競合を大きく引き離し、走行距離35万マイル(約56.6万キロメートル)の間に63回、すなわち1,000マイルあたり0.18回にとどまった。次いでGMが約13万マイルの間に105回、1,000マイルあたり0.80回。他のほとんどの企業は走行距離が数千マイルにしか達しなかった上に、手動切り替えの頻度はウェイモ、GMをしばしば上回った。

しかしこの統計は発表されるまでのタイムラグが長いうえ、カリフォルニアを走行実験の中心拠点としないフォード、BMW、VWなどの企業にとっては不利な指標だ。

■特定しがたい先行企業

「先行している企業を特定することは難しい」と米投資調査会社エバーコアのアナリスト、ジョージ・ガリアース氏は話す。「来年のDMV統計を見るまでは各社の進捗を比較することはできない。それも同一条件での比較ではない」と言う。

出足が好調なウェイモに、必ずしも成功が約束されているとは限らない。同社が何年もかけて学んだことは、既に無数の競合スタートアップ企業によく知られているからだ。

自動運転車の市場投入時期について、GMは2019年を目指し、ウェイモは「今後数カ月以内」に投入すると昨年末に発表した。しかし、1都市だけの展開では本格普及とはいえないという視点を忘れてはならない。

米金融モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は、自動運転技術が「社会的に受け入れられるかも含めた倫理的、法的、規制的要因」により、市場展開は期待されているよりも大幅に遅くなる可能性があると言う。

また、いくつかの異なるサービスが各地で生まれることもあり得るという。市場は「まだ初期段階」であり、「複数の企業が成功を収める余地もある」(同氏)。

GMに技術面で後れをとっているとみられているフォードは、2021年から自動運転車による乗客輸送、配送サービスを「大規模に」展開する計画だ。

一方、GMのバーラ氏はホンダの「地理的リーチ(到達距離)」を称賛し、GMクルーズが新たな国際的な株主の存在を生かし、GMの主市場から遠く離れた日本などの市場に参入する可能性をほのめかした。

ホンダとの提携は、上記以外にも有力なメリットをGMクルーズに2つもたらす。ひとつは、自社以外の自動車メーカーと協力することで、外部から技術の妥当性を確認できることだ。

これは、BMWと競ううえで、GMクルーズに助けになる。BMWは2016年、半導体のインテルと(翌年インテルにより買収された)カメラ会社のモービルアイとの提携を発表し、同3社による自動運転連合を業界の青写真にしたいと話した。この連合には米デルファイ、欧米フィアット・クライスラーも後に参画し、自動車メーカーを複数社集めた数少ない例となった。

一方で、フォードは7月に自動運転技術部門を新会社として独立させた。現在は投資家と「積極的に話し合いを進めている」(同社)という。

■最大のメリットは「資金」

GMクルーズにとってホンダと提携することによる第2の、おそらく最も重要な、メリットは資金だ。これは複数の市場で展開するために必須となる。先述のモルガン・スタンレーのジョナス氏は、発表された27.5億ドル全額をホンダが出資すれば、GMクルーズは90億ドルをサービスを立ち上げるために使えると見積もる。

「GMクルーズにとってホンダとの提携は、GMの資金をこれ以上使わずに、自動運転車事業を素早く拡大するために必要な資金を増やせることを意味する」と米金融情報会社モーニングスターの自動車アナリスト、デビッド・ウィットソン氏は話す。

カナダの金融大手RBCキャピタル・マーケッツの自動車アナリスト、ジョセフ・スパック氏はこのように話した。「自動運転車開発にあたり、予想以上に資金が必要になるかもしれない。各社は新たな提携先を探すことを迫られるだろう。自動運転の実現のため、今後もさらなる企業連合が広がる可能性がある」

By Peter Campbell in Paris and Patti Waldmeir in Chicago

(2018年10月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

《追記》
☆本田技研工業情報 「Hondaがクルーズ・GMと無人ライドシェアサービス用車両の開発で協業」ここをクリック

nikkei.com(2018-10-05)