近未来のクルマはこうなる? ホンダ クラリティPHEV

 昨年の春、ニューヨーク国際オートショーで発表されたホンダ・クラリティは、燃料電池仕様、EV仕様そしてPHEV(プラグイン・ハイブリッド)仕様の3種類だった。 それは、これから世界のメーカーがどの方向へ進もうとしているのかを、明確に示していた。

 クラリティのメイン市場になるアメリカで、ニューヨークショーの直後に発売されたのは、水素を燃料とする燃料電池のクラリティだった。生産台数は米国で5000台以下だったが、静粛でスムーズ、車重は2トンを超えるものの、重めのアコードのような走り。しかし、肝心の水素ステーションはカリフォリニア州にわずか35カ所ほどしかない。従って燃料電池仕様のクラリティは成功とはいかなかった。

 それからしばらくして、こんどは第2弾、 EV車、つまり電気仕様がカリフォルニア州やオレゴン州などに登場した。こちらも性能も走行性も素晴らしかったものの、航続距離がEPA(米国環境保護庁)の基準で89マイル(142km)だったため、はやり現実的ではなかった。

 さて、2018年になって第3弾。ついにメイン・イベントとして今年の夏に日本にも現れたのは、PHEVだ。これはビッグ・ニュースとなった。 PHEVは、ガソリン・エンジンを駆動ではなく、発電機として搭載している。


 端的にいえば、クラリティPHEVは、エンジン付きEVだ。電欠の心配がもっとも少ない、現実的なシステムだから、もちろん一番多くのユーザーにアピールした。PHEVの美味しいところは、主な駆動方式が燃料電池車やEV車とほとんど同様の走りができることだ。つまり、電気モーターで走ること。

 スタイリングは、燃料効率が最もよい流線型のエアロダイナミック・ボディを採用している。セダンは、現在のホンダらしい日本刀をイメージさせるシャープなグリルで、エッジはすっきりと立ち上がり、全方向に吸い込まれていく。

 未来的でありながら、なぜかレトロ感もあり、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」、さらには「トータル・リコール」に出てくるようなクルマを思わせる。そう、30年前の映画制作者たちが、その時点で想像した未来のクルマっぽいのだ。


 クラリティPHEVのパワートレインはシリアル(直列) ハイブリッドだ。搭載された1.5Lの4気筒ガソリン・エンジンは発電機として、バッテリーを充電する。

 パワートレインは、2モーターのプラグインハイブリッドシステム。電気モーターが主としてクルマを動かしている。これは、たとえばトヨタ・プリウスのハイブリッドのような、ガソリン・エンジンも電気モーターもどちらもトランスミッションに直結しているパラレル(並列)・ハイブリッドとは対象的だ。

 クラリティの184psの総合出力と315Nmのトルクは速くはないけど、十分だと言える。0-100km/hの加速は、7.8秒と大型セダンそこそこかな。

 アメリカの厳しいEPAの発表では「クラリティPHEVはEVモード走行では77km」とされているが、ホンダの日本国内のカタログを見ると、一回の充電で走れる距離は114kmになっている。これは、トヨタ・プリウスの68kmと比べると、ホンダのシステムはどれだけ優れているかがわかる。

 クルマの航続距離を計算するのは、実はなかなか難しい。たとえば1日に走行する距離が平均して80km以下で、帰宅して充電するという人なら、ほとんどガソリンは消費しない。それなら航続距離は簡単に1000kmを超えるだろう。いや、数千kmになるかも知れない。


 クラリティは静かで乗り心地がしなやかで、パワーを自由自在に伝達するので、気持ちのいい走りを提供してくれる。

 2トン以上の重量をもつこのセダンは意外にフラットにコーナリングし、ボディロールが少ない。バッテリーパックやモーターがボディの低い場所に設置されているからだ。風切り音やタイヤノイズは低いし、回生ブレーキのペダルフィールは期待していた以上に自然で、しかも効きも良い。

 室内はアコードを思わせるような、上質で、多少保守的なスタイリングになっている。ウッドのインパネ周りと本革のシートは見た目にも高級感があり、座り心地もワンランク上の快適性と言える。

 スイッチ類もシンプルで、運転席からは楽にいじることができる。しかも、ギアセレクターはアコードから流用された真っ平らなもの。これは、好き嫌いがはっきりしそうだ。

  588万円のクラリティPHEVは、多いに市場に訴える力があると思う。燃料電池仕様、EV仕様とは違い、PHEV仕様の航続距離は軽く1000kmを超えるし、走りもそこそこ高級、かつスポーティだし、質感のレベルはアコード以上だ。

 結局、クラリティPHEVが成功するか否かは、賛否両論の外観スタイリングがどれだけ市場に受け入れられるかにかかっている。

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msn.com(2018-09-02)