「断熱圧縮」猛暑を招く 2段重ね高気圧とフェーン現象

 今年の夏は記録的な猛暑が続いている。7〜8月と最高気温が40度を超す地点が相次ぎ、猛暑日を観測した地点の数は過去最多となった。本州を覆う太平洋高気圧の上にチベット高気圧が重なったことに加え、高温の風が山から吹き下ろすフェーン現象も猛暑に拍車をかけた。いずれも、乾いた空気が下降する際に圧縮されて温度が上がる「断熱圧縮」と呼ぶ現象が広い範囲で起こった。

 7月の暑さは記録ずくめだった。23日に埼玉県熊谷市で統計を取り始めてから最高の41.1度を記録、東京都青梅市でも40.8度に達した。東日本の平均気温は平年より2.8度高く「最も暑い7月」になった。西日本も1994年に次いで2番目の暑さだ。

 8月に入っても記録的な暑さは続き、名古屋市や岐阜県美濃市などで40度を超えた。23日には午後2時すぎに新潟県三条市で40.4度に上昇し、同県胎内市でも40.8度を記録した。気象庁によると、6〜8月に最高気温が35度以上になる猛暑日を観測した地点は、8月13日の時点で過去最多を更新した。これまで1位だった2010年は8月が記録的な猛暑だったのに対し、この夏は7月中旬から猛暑日が相次いだ。

 記録的な猛暑の原因は太平洋高気圧の上に、大陸から張り出したチベット高気圧が重なる2層構造になったことだ。猛暑の年は2層構造の高気圧ができることが多い。記録的な暑さだった1994年や2010年にも大規模に発生した。この夏は、2つの高気圧が重なったまま停滞したことで猛暑が長引いた。


 高気圧の地表付近は周囲よりも気圧が高い。絶えず空気は気圧の低い方に向かい、風となって吹き出す。その分を補うため、上空の空気が下に向かって降りてくる。この下降気流によって空気が圧縮され、暑さをもたらす。

 空気は圧縮されると、自然に温度が上がる。これが断熱圧縮とよぶ現象だ。空気が圧縮されるほど、発生する熱が増える。高気圧が2層構造になっていると、太平洋高気圧だけのときより高い所から空気が下降する分、より圧縮されて温度も上がりやすい。

 この夏はフィリピン沖で上昇気流が強かった。大雨を降らせた後に上空を北へ進み、日本付近で下降して太平洋高気圧を強めた。チベット高気圧の気流と合わさって強い下降気流となった。気象庁予報官の新保明彦さんは「太平洋の熱帯付近の海水温が平年より高く、フィリピン沖の上昇気流の発生が活発になりやすかった」と指摘する。

 下降気流が吹いて温度が上がると、雲ができにくくなる。空気が含むことのできる水蒸気の量が増え、湿度が下がるからだ。日差しをさえぎる雲がないと、直接地表に当たって気温が上がりやすい。

 一部の地域では、乾いた風が熱を帯びながら山を吹き降りるフェーン現象の影響も加わり、記録的な暑さになった。上空を吹く強い風によって山頂付近から乾いた空気が平野部に吹き下ろした。この際にも断熱圧縮が起きた。

 こうしたフェーン現象では、100メートル下降するごとに温度が約1度上昇するとされる。最高気温が40度を超えた熊谷市や多治見市、名古屋市などでは、山地から吹き下ろす風が観測されていた。

 熊谷市や多治見市では、もう1つの暑さの要因も指摘されている。フェーン現象による風が山を越えて吹き下ろす際、強い日差しで熱くなった地面からの熱を受け取り、さらに温度が上がった可能性があるという。筑波大学教授の日下博幸さんは「昼はビルが並ぶ都市部よりも住宅地の方が熱を発するため、そこを風が通ると猛暑が強まりやすい」と説明する。

 気象庁のデータで1898年から7月の平均気温を比べると、明らかに長期的に上がってきている。ここ30年だけを見ると上がり幅はさらに急になるという。気象庁の異常気象分析検討会の会長を務める東京大学教授の中村尚さんは「近年はほとんど涼しい年がない。さらに暑くなる年に備えるべきだ」と指摘する。

(科学技術部 張耀宇)

nikkei.com(2018-08-23)