セスナに1機差で勝利 ホンダジェット「負けられぬ」

 ホンダの小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」が上昇気流に乗っている。全米航空機製造者協会(GAMA)が発表した2018年上期(1〜6月)の納入機数は17機で米セスナの競合機の16機を上回り、小型ビジネスジェットで17年上期、17年通期に続く世界首位となった。6月に受注を始めた日本での出足も好調だ。今後の戦略をホンダの航空機事業子会社、米ホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格社長に聞いた。

■乗り比べて選んでほしい

 ――ホンダジェットの販売が今年も好調です。

 「17年に初めて1位となりました。競合である米セスナも『日本の会社を1位にさせない』と攻勢を強めており、ホンダとしても絶対に負けられないと思っています」

 「航空機は富裕層向けのビジネスで、特定層をターゲットに訴求を図る点で自動車とは異なる競争があります。でもホンダはまっとうな勝負をしていく考えです。性能面ではホンダジェットが勝っていると自負しています。両方の機体を乗り比べて、選んでもらえればと思います」

 ――今後もトップを維持するには生産能力の引き上げも必要です。

 「いまホンダジェットは米国の拠点で平均すると月4機を生産しています。今期末に5機まで引き上げ、また増やしていく予定です。月10機ほどの生産体制になるには数年かかるでしょう。ただ、やみくもに機数を追うのではなく、雇用や品質面を含めた全体のバランスを重視していきます」 「生産増には人員も必要です。一旦、人を増やしても後で減らすことになったり、多くの機体をつくっても品質が安定しなければ元も子もありません。トップを取るために多くの犠牲を払い、社員が不幸になるようなことはしません」

 ――日本でも6月にホンダジェットの受注を始めました。ただ、日本のビジネスジェット市場は90機弱にとどまります。

 「日本にもビジネスジェットを買える人は十分にいますが、保有率が非常に低い。例えば米国では富裕層の18%ほどがビジネスジェットを保有しているとされますが、欧州の主要国は8%、日本は2%ほどです。ポテンシャルは十分にあります」

  「日本では受注開始から2カ月で10機以上の受注ができました。良いスタートを切れたと思っています。日本のビジネスジェット市場を4〜5年で2倍にするとの目標も十分射程にあります」

■日本はインフラ整備がまだ

 「ただ、日本はまだビジネスジェットを利用するインフラが整っていません。インフラ整備と両輪で進めないと、社会の移動システムを変えることはできません。より多くの人と連携する必要があります。そのためにホンダジェットの国内販売では丸紅エアロスペースと、日本から直接乗り継ぐ海外のチャーター機利用ではANAホールディングス(HD)と組みました。日本でビジネスジェットが交通システムの1つとなれば、ホンダがなし遂げた価値は非常に大きいと思います」

 ――ホンダジェットは米国で生産し、中国など世界へ輸出しています。米中の貿易戦争は受注に影響していますか。

 「米国から中国へホンダジェットを輸出していますが、関税変化の対象になっていません。ゼロではありませんが、一連の問題による影響は大きくないと思います」

 ――ホンダジェットは開発着手から30年かけて事業化した他社にはできない商品です。藤野社長にとっての「ホンダらしさ」とは何ですか。

 「ホンダには様々な個性をもった人が集まっています。あまり『これだ』と物事を決めてしまわないことがホンダらしさだと思います。例えばホンダジェットも、これまでの慣習から『こうしなければいけない』という考えにとらわれず、技術者が一番いいと思う形を目指したことで主翼の上にエンジンを置くという常識破りの構造が生まれました。枠にとらわれずに、自分が発想したことを実行していくことが大切です」

(聞き手は古川慶一、杉本貴司)

nikkei.com(2018-08-10)