広い荷室空間、乗ることが楽しくなるクルマ ホンダ「N‐VAN」

  「N‐VAN(エヌバン)」は、ホンダの新しい軽商用車である。ホンダの同カテゴリーには「アクティ・バン」があったが、19年間もモデルチェンジされることなく、今回、エヌバンに引き継がれた。

 エヌバンは昨年、フルモデルチェンジで2世代目となった「N‐BOX(エヌボックス)」の基本骨格をもとに、広い荷室空間や、積み下ろし作業のしやすさを考えて開発された。そのための、数々の工夫が施されている。


 一つは、運転者一人だけで利用することを想定し、助手席が折り畳め、床と一体で平らになる切り替え機能だ。通常は4人が乗車できる座席を備えるが、運転席以外は、床を真っ平らにして、大きな空間を確保できるようにした。


 また、助手席サイドのドア支柱をなくし、前後のドアを開けると大きな開口部が得られるようになっている。助手席サイドの支柱がなくなっても、車体の剛性を十分に確保し、支柱の残る運転席サイドとの調和をとって操縦安定性に不具合が出ないようになっている。


 軽自動車規格となる排気量660ccのガソリンエンジンには、自然吸気仕様とターボチャージャーによる過給仕様の2種類を用意した。変速機は、無段変速機(CVT)のオートマチックと、6速マニュアルシフトがある。軽商用バンで6速マニュアルシフトは珍しいが、軽スポーツカー「S660」の変速機を利用している。

  エヌバンは、その実用性を活いかして、仕事以外にも、例えば大きな荷物を必要とする趣味やレジャー、また車中泊をよくする人にも使えそうだ。今回試乗したのは、そうした個人向けに設計されたタイプ「エヌバン+スタイル クール」と「同 ファン」という車種だった。エヌバンは、基本的にハイルーフだが、「クール」は標準ルーフとなる。

 自然吸気エンジンを搭載した試乗車の「クール」には、荷物を想定して100キログラムの重りを積んでいた。この重さにもかかわらず、自然吸気エンジンはCVTとの組み合わせで、発進の力が強く、勢いよく走りだした。その後の加速も順調だ。ただ、上り坂になると、余計にアクセルペダルを踏み込む必要がある。

  とはいえ、市街地を中心とした走りでは何ら問題ない。軽商用バンの上限である350キロの荷物も運べるように開発されているので、自然吸気エンジンといえども、その力強さには驚くばかりだ。

 「ファン」の試乗車は、ターボエンジンだった。こちらは、ターボチャージャーにより、文句なく速い。高速道路も難なくこなすことができる。燃費を向上させるためのECONスイッチを入れていても、不満なく走れた。

  操縦安定性については、1年前のエヌボックスで感じたカーブでのふらつきはなくなり、安心してハンドルを切ることができる。仕事で毎日使う商用車だけに、運転への不安をなくした仕上がりは心強い。タイヤも商用車向けだが、走行中の騒音がよく抑えられており、騒音は耳に届くものの、神経をいらだたせるような雑な音がしないので、疲労感も少ない。

 開発の方向性が明確で出来上がりも良く、好感の持てる軽商用バンだ。仕事やレジャー、使う人の用途に合わせ、色々な可能性を感じさせる。試乗して楽しいクルマだった。

2018年07月31日 05時20分 Copyright c The Yomiuri Shimbun

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yomiuri.co.jp(2018-07-31)