ホンダ、ジェット「不毛地帯ニッポン」での勝算

 ホンダは6日、小型ビジネスジェット「ホンダジェット」を丸紅と組んで2019年前半に日本で出荷を始めると発表した。15年末の米国を手始めに既に欧州や中国、アジアといった世界各地で販売しているホンダジェット。主要地域でトリを飾るのが母国・日本だ。市場環境で見れば「不毛地帯」と言える日本でホンダの勝算はどこにあるのか。

 多くの顧客が搭乗して運航する旅客機の定期便と異なり、ビジネスジェットは顧客の要望とスケジュールに合わせた出発時間やルートを作ることができる。そのため欧米の企業幹部などでは一般的に使われている。

 世界のビジネスジェット機市場は2000年代に大幅に拡大したが、08年のリーマン・ショックで市場は縮小。その後緩やかに拡大する状況が続いている。ただ日本はほかの先進国と比べて普及が遅れている。日本ビジネス航空協会によれば日本における直近のビジネスジェットの保有機数は公用・民間を合わせて90機弱。1万3千機を超える最大市場の米国を大きく下回る。「ぜいたく品」とのイメージが根強く、周囲の目を気にする経営者が利用を敬遠する傾向にあるといった事情もある。

 ホンダは日本へのジェット投入でこうした日本市場のカベを破れるのか。追い風は近年の訪日外国人(インバウンド)の急増だ。17年の訪日外国人は前年比19%増の2869万人と最多を記録。20年の東京五輪を控え、さらに増加が予想される。東京や大阪だけでなく、訪日客の間では地方の観光地の人気も高まっている。海外の富裕層が大きなターゲットになりそうだ。

 空港などの環境面でも追い風が吹いている。国交省はビジネスジェットの利用を促すため、羽田や成田、関西国際といった主要空港を中心に専用ターミナルの整備を進めている。羽田では16年から発着時におけるビジネスジェットの優先順位を引き上げた。

 現在、ホンダジェットが運航可能な地方空港は全国84港ある。ホンダジェットを手掛けるホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格社長は「新幹線でアクセスするよりはるかに多くの地域をカバーできる」とかねて話す。

 日本発売で各地の空を飛ぶホンダジェットを目にした国内の富裕層のほか、訪日外国人が自国でホンダジェットを買うといった、相乗効果も期待できそうだ。

 ホンダにとり、ホンダジェットの国内投入には別の狙いもある。ホンダのブランドイメージの低下という「カベ」を破ることだ。

 「少し無理もあったが藤野にお願いして導入となった」。会見でホンダの八郷隆弘社長はこう打ち明けた。八郷社長は17年、主力車「シビック」の日本再投入を決めるなど、日本におけるホンダブランド再構築への思いが強い。近年の日本でのホンダは軽自動車「N―BOX」のヒットはあるものの、画期的な商品は決して多くはないのが現状だ。八郷社長は会見で「ホンダがこういう商品を作っていることを理解してもらいたい」と強調した。

 ホンダは決算会見なども副社長がこなし、社長自らが会見する機会は少ない。それでも今回はトップ自ら登壇した。ホンダジェットへの期待を示すと同時に、現状のホンダブランドに対する焦りの裏返しのようにも見える。

 ホンダは今年で発売から60年を迎える二輪車「スーパーカブ」や、世界一厳しい米排ガス規制を初めてクリアした初代シビックといった「あっと驚かす」製品で世界市場で切り開いてきた。ビジネスジェット不毛地帯、日本の空を切り開く翼となれるか。ホンダジェットの新たな飛行が始まった。(古川慶一)

《追記》
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nikkei.com(2018-06-06)