養殖から外食まで 鯖やのユニクロ戦略

 養殖から飲食店まで一気通貫の「漁業のユニクロ」――。そんな企業を目指すのがサバ料理専門店の鯖や(大阪府豊中市)だ。新会社設立後にクラウドファンディング(CF)で資金を調達し、2018年4月にサバやタイなどの養殖事業を始める。「未利用魚」を使った自動給餌システムなど低コスト化も進め、水産業に新風を吹かせる。

■目指すは漁業版SPA

 「漁業のユニクロを目指します」。17年7月、鯖やの右田孝宣社長(43)が全額出資し、養殖を手がける新会社「クラウド漁業」を設立した。島根県の隠岐諸島にある海士町で地元の漁業協同組合や漁業者と協力し、18年4月から新技術を使った養殖を始める。

 目指すのは漁業版SPA(製造小売り)だ。ユニクロに代表されるSPAはモノの製造から販売まで一貫して手がけるビジネスモデル。同社が扱う年間300トン以上の鮮魚を安定的に仕入れ、柔軟に商品開発できる仕組みが必要と判断。養殖事業への参入を決めた。

 背景にあるのはサバの漁獲量の減少だ。水産庁によると1970年代には100万トンあったサバの漁獲量は現在、半分の50万トンまで落ち込んだ。同社が仕入れる油脂含量21%以上の「とろさば」は全て国産。天然のサバだけでは好不漁に左右され、リスクが高すぎる。

 「水産業では魚をとる人、卸す人、売る人が分断されていた」と右田社長。養殖業者はスーパーや飲食店などの小売業が要求するサイズや魚種などの規格に合わせて養殖する必要がある。生産コストが上がるほか、価格設定は小売りに握られ、買いたたかれていると指摘する。「『出口』を押さえて低コスト養殖を手がければもうかる漁業になる」

 養殖サバはサバ料理専門店「SABAR」が仕入れるほか、サバ以外のタイやスズキなどの養殖魚は18年7月に開業する新ブランド店「漁師の串」で扱う。隠岐諸島の名産品を扱う「離島酒場」も立ち上げ、養殖魚の出口を広げる。

 右田社長は大阪の商業高校を卒業後、鮮魚店に勤め、97年にオーストラリアの回転ずし店に就職した。帰国後は居酒屋を経営し、サバ寿司(すし)が人気メニューに。「(飲食店情報サイトの)ぐるなびの料理ジャンルに焼き肉や寿司と並んでサバを加えたい」と、07年に鯖やを設立した。

 14年にSABARを開業し、とろサバの料理を提供し国内で14店舗を運営。16年7月にはシンガポールの伊勢丹に海外1号店を出店した。21年までに従来比約6倍の83店舗まで増やす計画だ。

■IoTで自動給餌システム

 「右田さんにしかそんな発想できないよ」。海士町の漁協は、右田社長が提案する養殖プランに驚きを隠せなかった。

 新会社が開発を進める技術は主に3つだ。

 1つ目は、値段のつかない未利用魚を利用した低価格のエサの開発だ。定置網にかかった小型のカタクチイワシやトビウオなど未利用魚の漁獲量は、国内で流通する魚の約9倍もあるという。福井県立大学などと連携し、養殖コストの7割を占めるエサ代の半減を目指す。

 2つ目は、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を使った自動給餌システムだ。総務省の委託事業としてコンソーシアムを発足。KDDIや公立はこだて未来大学などと組み、海水温を測定してエサを自動でまく装置を開発中だ。

 3つ目は、全国でも例がない同じいけすで異なる魚種を養殖する「混合養殖」。「水族館ではどうして様々な魚が同じ水槽で泳いでいるのか」。そんな単純な疑問が契機になった。魚種に応じた大きさのエサを常に供給できれば、共食いを避けて混合養殖は可能。価格の高いタイなどもサバと一緒に養殖できる。

 養殖は18年に3千匹、19年に3万匹に増やす計画。今後は、長崎県佐世保市や福井県小浜市でも養殖事業を始める予定だ。将来は養殖技術をライセンス提供し、低コスト養殖を広げていく。

 養殖新会社の資金調達手法も画期的だ。15年に日本で解禁された株式投資型のCFを活用した。CFは不特定多数からインターネット経由で小口資金を集める手法。1月6日の募集開始後、わずか14分で214人、3800万円が集まった。株式投資型CFでの資金調達では国内最速という。

 これまでも店舗の開業資金を購入型のCFで集めてきた右田社長は「マーケティングを兼ねた資金調達。世の中の期待と擦り合わせるために必要」と語る。18年7月には鯖や自体で株式投資型CFを実施する予定だ。

 新会社は養殖などの技術ライセンス料を含め、22年に売上高34億円、27年に50億円以上を見込む。「まずはクラウド漁業での上場を目指す」。おいしいサバを提供することを貪欲に追求してきた右田社長が、また新たな挑戦にカジを切った。

(大阪経済部 赤間建哉)

日経産業新聞(2018-02-09)