復活のシビック、完成度の高い操縦安定性がひかる

 Honda CIVICの10世代目が国内でも発売された。日本の4ドアセダン市場が縮小しているとの理由で、一部英国製のタイプR限定販売以外は9世代目シビックの国内販売が見送られてきたが、再登場ということになる。


 今回試乗したのは、4ドアのハッチバックと4ドアセダンである。ハッチバック車にはタイプRの設定もあるが、今回は試乗できていない。

 エンジンは、2015年のステップワゴンに搭載された排気量1.5Lの直噴ガソリンターボである。ただし、ミニバンと、ハッチバック/セダンという性格の違いがあるため、シビック用のチューニングがなされているという。最高出力は、ステップワゴンの150PSから182(ハッチバック)〜173(セダン)PS(ともにCVT車)と高められ、最大トルクもステップワゴンの203Nmから220Nm(CVT車)へ増大されている。

 しかし実際に試乗してみると、出足の所で新型シビックはやや物足りなさを覚えた。これは、性能最高値ではなく、最大トルク発生回転数がステップワゴンは1600rpmであるのに対し新型シビックは1700rpmとわずか100rpmとはいえ高回転側で発生するためかもしれない。


 また、今回の試乗は、ハッチバック/セダンともトランスミッションがCVTであり、近年のCVTの制御傾向として発進時にエンジン回転数を上げすぎないプログラムとするため、アクセルペダルの踏みはじめに物足りなさを覚えさせたのだろう。


 一方、回転を上げていくにしたがってエンジンは伸びやかにクルマを加速させていった。その際、ターボエンジンではあるが、急に加速が強くなるといった過給効果はほとんど感じさせず、自然吸気のような感触である。


 新型シビックで印象深いのは、フィットを基にしたセンタータンク方式と異なる新プラットフォーム採用による剛性感と、操縦安定性と乗り心地の調和であった。

 駐車場を移動する程度の運転で、早くもがっしりとした車体の逞しさを覚えさせた。ことにハッチバックはタイヤが偏平率40%であるため、かなり乗り味は硬めに感じるが、それでも跳ねるような悪さは伝えてこない。

 道路に出て走り出すと、ステアリング操作に対する応答が的確で、敏感すぎないところもよい。昨今のホンダ車は、全体的にステアリング操作に対してクルマが敏感に動きすぎ、真っ直ぐ走るときでも神経を使う傾向があったが、新型シビックは真っ直ぐも落ち着いて走れる。それでいて、ステアリングを操作した通りに曲がってくれる信頼感もある。新型シビックから、ホンダの操縦安定性の作り込みが変わってきたように思えた。


 4ドアセダンは、タイヤが偏平率55%でタイヤ側面が高くなるが、それでも腰砕けになるようなことはなく、真っ直ぐ走り、カーブでもステアリング操作への応答はきちんとしている。乗り心地の面で、タイヤの高さがある分より衝撃を吸収する様子がうかがえるが、いずれにしても、操縦安定性と乗り心地が調和している様は、ハッチバック/セダンともに共通の傾向を示す。

 車両重量が1300kg台という軽さであるため、山間の屈曲路での運転も軽快だ。だが、車体幅が1800mmという大きさのクルマとなった新型シビックには、どこか性格違いのような思いも残る。かつての古いシビックの想いを引きずっているのかもしれないが、日本人にとってシビックとは、小柄で元気のいい、また実用性も高い身近な一台との印象がある。

 大柄になった車体から受ける上級さと、余りに軽快な走行感覚には、どこかちぐはぐな気がしないでもない。だが、ほかとは違うという意味で、ホンダらしいクルマともいえるのだろう。


<< 御堀直嗣=モータージャーナリスト >>

nikkeibp.co.jp(2017-12-18)