「究極のエコカー」燃料電池車に吹く逆風

 次世代エコカーの開発競争が電気自動車(EV)を軸に激しさを増し、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)には逆風が吹きつける。インフラ整備が進まず、車両価格も高いためだ。FCVは、二酸化炭素(CO2)を出さない水素で走る「究極のエコカー」。巻き返しのチャンスはあるのか。

 「FCVへの我々の取り組みが後退したわけではない」。開幕中の東京モーターショーで、トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長は力をこめた。10月25日、報道陣向けのプレゼンで、「水素社会実現へのトヨタの『変わらぬ意志』の象徴」と語り、FCVのコンセプトカーを披露した。

 FCVは燃料電池で水素と酸素を反応させ、生み出した電気でモーターを動かして走る。トヨタは、電池の発電効率などを上げて、水素の充填(じゅうてん)1回で航続距離1千キロの実現をめざす。

 2014年末に世界で初めてFCV「ミライ」を販売したトヨタは、モーターショーでEVの試作車や、EV用次世代電池を開発する計画を打ち出した。ルロワ氏が強調しなければ、FCVに対するトヨタの姿勢に疑問符がついたはずだ。

 今回のモーターショーは、本格的なEV時代の幕開けを告げた。新たなFCVを出展しているのは、トヨタと独ダイムラーのメルセデス・ベンツぐらいだ。

 航続距離は日産自動車のEV「リーフ」の400キロに対し、ミライの650キロが上回る。一方、国内のインフラ数は、EVは約7100(急速充電)あるが、FCVは約100。車両価格はFCV700万円台、リーフは最安のグレードで約315万円。いずれも国などの補助金があるものの、EVの方が手が届きやすい。

 ベンツは、外部電源で充電もできるプラグインFCVを出展。水素による航続距離は437キロだが、備えたバッテリーだけでも49キロ走れる。水素が切れても走れ、インフラ不足をカバーする。来年から生産を始め、ドイツや日本、米カリフォルニア州などで販売する計画だ。ドイツでは、水素を供給するインフラの数は年内に50程度になり、来年には200に増える。

 FCV開発を担当するダイムラーのゲオルグ・フランク氏は「電気が家でも手に入るEVの方がドイツでも伸びている」と話す。しかし、「長距離走行やバスやトラックにはFCVが向いている。いまもガソリン車とディーゼル車があるようにEVとすみ分けできる」とみている。

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 FCVもEVもエコカーとして注目されるが、地球温暖化対策としては、どちらもまだ不十分だ。水素は、天然ガスなどの化石燃料からつくる方法が主流で、その過程でCO2が発生する。EVも石炭や石油など化石燃料でつくった電気を使えば、CO2の発生量を大きく減らせない。

 ただ、発電時にCO2を出さない原発の再稼働に慎重な日本にとって、水素は大きな可能性を秘める。

 風力や太陽光、バイオガスなど自然エネルギーを生かし、CO2を出さずに水素をつくる実験が全国で進む。究極のエコカーを実現できる供給網づくりもFCVの普及に急務となる。

 FCVの技術は日本勢の一部が優位に立つが、内外の他社も巻き込まないと広がりに欠ける。「クラリティ」を昨春発売したホンダは米ゼネラル・モーターズと組み、新たなFCVを20年ごろに投入する。こうした仲間づくりも課題だ。

 追い風もある。20年の東京五輪で水素社会の幕開けを世界に示そうと、政府は水素ステーションを160に増やす目標を立てる。九州大の佐々木一成・水素エネルギー国際研究センター長は「EVが注目を集めるいまはFCVにとって雌伏の時。東京五輪までには新型車が出てくる。インフラ整備を進めるためにも、車両価格をどこまで下げられるかが、FCV復権のポイントになる」と話す。(編集委員・堀篭俊材)

asahi.com(2017-11-02)