中国のエコカー新規制、外資が対応苦慮 19年から義務

 中国の自動車市場に2019年から世界で最も厳しい環境規制「NEV規制」の導入が決まり、外資メーカーが対策に苦慮している。中国政府は外資に19年から順次、大量の電気自動車(EV)を造らせ、中国を世界一のエコカー大国にする狙い。導入当初にまず3〜4%のエコカー生産を義務付け、順次引き上げる。独フォルクスワーゲン(VW)など外資は規制に対応した計画を公表したものの、大きな負担を強いる規制には今も反発する。果たして政府の思い通りに事は進むのか。

 「今回は、さすがの中国政府も譲歩した」。9月28日、中国政府がNEV規制の導入を正式に発表すると、ある欧米メーカーの幹部はこう漏らした。中国政府の譲歩とはNEV規制の導入時期だ。当初案では同規制の導入は18年だったが「早すぎて対応できるはずがない」と多くの外資メーカーが反発。政府はやむなく導入を1年延期した。

 それでも外資には厳しい内容だ。「中国政府は外資に厳しいハードルを課し、中国企業に優位になるよう規制を作り上げた」(外資メーカー)。同規制を詳細に見れば明らかだ。

 中国政府は19年から各社の年間生産台数に応じ、EVまたはプラグインハイブリッド車(PHV)の生産を義務付けた。販売でなく生産というのがポイントだ。

 外資には今後、莫大な投資が必要となる新工場の建設が求められる。19年までに新工場を軌道に乗せるのはあまりに急で現実的に難しい。さらに外資は中国企業との合弁が義務化されているため、先端のEV技術などが合弁相手の中国メーカーに流出することを恐れ、反発する。

 さらに同規制ではEVとPHVを「新エネルギー車(新エネ車)」としてひとくくりにし、その生産比率を「19年に10%」と義務付けた。ただ、中国での年間販売や生産の10%を新エネ車にしなければならないわけではない。あくまで計算上の数値で高性能のEVなどを生産すれば比率は低くなる。

 計算すると、NEV規制では中国で年間400万台弱を生産する独フォルクスワーゲンなら19年は約12万台の生産が必要になる。130万台のホンダや日産自動車なら4万台ほどだ。目安として19年は各社は年間生産台数の3〜4%を新エネ車に切り替える対応が必要となる。

 中国でシェアの大きい外資ほどハードルは高くなる。VWは25年にEVを150万台、米フォード・モーターは中国販売の7割を新エネ車にする計画を公表している。ほかにも中国に進出する多くの外資は新エネ車の生産計画を打ち出している。

 一方、中国政府は19年に生産準備が間に合わない外資などに対して救済制度を用意した。規制をクリアできないならEVやPHVの生産量が多いメーカーから「クレジット」と呼ばれる権利を購入すれば済む制度だ。

 だが、これまで中国政府は外資を排除し、ほぼ中国メーカーにのみ新エネ車販売を支援する補助金を出してきた。過去4年間で補助金は計1兆円にのぼる。クレジット制度で大もうけするのは、補助金でEV販売を伸ばしてきた中国メーカーだ。

 例えば、エコカー首位のBYDなら19年以降の3年間で、クレジットの売却で約2400億円の利益を上げると試算されている。「こんな規制は悪法以外の何ものでもない」(独メーカー関係者)との声もあがる。

 今のところ、中国政府は規制に違反した場合の罰則の内容については明らかにしていない。先進国とはほど遠い法運用を考えると、外資が一方的に厳罰を受けるリスクも否定できない。

 ある日系幹部は「こんなむちゃな規制が本当に運用できるのか、見極められない。だから当社の今後の具体的な計画も煮詰まらない」とこぼす。とはいえ、世界最大の自動車市場を前に外資側も譲歩を迫られる。

 中国政府は「ガソリン車禁止を検討」とEV時代の到来を盛んにあおり、環境を盾に世論を形成し、NEV規制を正当化しようと懸命だ。果たして中国がもくろむ政府主導のEVシフトが進むのか。今後、規制の修正を含め、曲折はまだまだありそうだ。

(広州=中村裕)

nikkei.com(2017-10-20)