「北朝鮮崩壊後に向け協議を」中国識者が異例の提言

 核・ミサイル開発を止めない北朝鮮と米国との対立激化を危ぶむ中国の識者が、「北朝鮮で最悪の事態に備える時」と題する論考をネット上で発表した。軍事衝突による金正恩(キムジョンウン)政権の崩壊後に朝鮮半島の安定をどう保つかについて、中米韓で協議を始めるよう主張。北朝鮮との「対話」を重んじてきた、中国からの異例の提言だ。

 北京大学国際関係学院の賈慶国(チアチンクオ)院長による11日付の英文での寄稿が「East Asia Forum」のサイトに掲載された。  賈氏は、対話再開への中国の努力を北朝鮮がほぼ無視し、米領グアムへのミサイル発射まで公言しているとして「朝鮮半島で戦争の兆しは増すばかりだ」と強調。中国はこれまで米韓が戦時計画について協議を求めても北朝鮮を刺激しないよう応じてこなかったと分析しつつ、「最近の状況をふまえれば米韓と協議を始めざるを得ない」と述べた。

 その上で、金正恩政権の崩壊を念頭に、中国政府が考えるであろう論点として五つを提示した。

  まず、北朝鮮の核兵器をどこが抑えるかだ。「政治的混乱の中で(核が)北朝鮮軍の手に落ちるのは危険すぎる」と指摘。未完成で管理に巨額がかかるとみて、米軍に任せることもありうるとしつつ、「米軍が北緯38度線を越えた朝鮮戦争の記憶がよみがえり、中国自身が管理を望むかもしれない」と述べた。

 第二は難民問題。賈氏は「中国北東部への大量の難民流入を食い止めるため」として、中国軍が中朝国境に出動し、難民収容所を設ける提案を中国は受け入れるかもしれないとした。

 第三は戦後の治安回復をどこが担うかだ。「韓国軍? 国連平和維持活動(PKO)部隊? 米軍が北緯38度線をまたぐことは中国は認めないだろう」

 第四は新たな政権を国際社会がどう立ち上げるか。賈氏は、北朝鮮と韓国による統一政府樹立に向けて、朝鮮半島全土での住民投票を国連の支援の下に行う選択肢を示した。

 最後に、在韓米軍に暫定配備された高高度迎撃ミサイルシステム・THAAD(サード)の扱いを挙げた。中国は自国の安全保障に関わるとしてすでに撤去を求めており、金政権が倒れれば「北朝鮮のミサイル向けに過ぎないと言うワシントンとソウルは受け入れるだろう」としている。

 賈氏は「中国は北朝鮮での危機を望まない。核戦争、政治的混乱、大量の難民、さらに予測不能の事態を恐れる」としつつ、「だが、朝鮮半島の状況は悪化しており、備えるほかにない」と結んでいる。

 賈氏の寄稿が載ったサイトは次の通り。  http://www.eastasiaforum.org/2017/09/11/time-to-prepare-for-the-worst-in-north-korea/ (専門記者・藤田直央)

asahi.com(2017-09-15)