車、110年目の大転換 トヨタ「前例なき闘い」

 2015年の包括提携から約2年を経て相互出資に踏み切ったトヨタ自動車とマツダ。4日、共同記者会見したトヨタの豊田章男社長とマツダの小飼雅道社長の発言ににじんでいたのは、大量生産車「T型フォード」の誕生から約110年の大転換期に直面している自動車業界の危機感だった。


 豊田社長「グーグル、アップル、アマゾンという新しいプレーヤーが現れている。前例なき闘いだ。車をコモディティー(汎用品)にはしたくない」

 自動運転に電気自動車(EV)、コネクテッドカー(つながる車)、シェアリング――。人工知能(AI)や通信の発達で、自動車を巡る環境は劇的に変わっている。両社長の現状認識は、「T型フォード」が誕生し、移動の主役が馬から自動車に代わった約110年前と重なる。

 豊田社長は最近、社内で試作したスポーツ車「86」のEV版に乗った。そして一言「EVだね」。エンジンで動く車と違いEVは、どの車も同じような走りになってしまうというのだ。

 トヨタとマツダは互いに「車を愛する者」(豊田社長)。共同開発を始めるEVにも自動車メーカーが長年培ってきたブランドの味を出したい。そんな共通項が両社を引き寄せた。

 豊田社長「自主独立性を尊重し切磋琢磨(せっさたくま)しながら、持続性のある協調関係にする。だから資本を持つ形を取った」

 2年前の提携発表時には「トヨタは財布ではない」と語ったが、トヨタとマツダは今回、出資比率こそトヨタからマツダが5.05%、その逆が0.25%だが同じ500億円ずつの出資に踏み切る。調達した資金は米国で建設する新工場の投資資金に充てる予定だ。


 SUBARU、いすゞ自動車など、トヨタは数多くの自動車メーカーに出資する。その中でも同額の株式を持ち合うのは異例。この2年間、トヨタにはマツダから「学び」があったためだ。

 包括提携の発表から1年ほどが過ぎた16年5月。あるトヨタ幹部は部品の調達先を集めた講演で「トヨタは大きくなりすぎた。マツダはお金がない中でどうするかをよく考えている」と強調。この学びは、社内を車種ごとの組織に分けるカンパニー制の導入にも生きている。

 小飼社長「EVでは、将来の予測が難しい。変動にフレキシブルに対応できる体制が必要だ。(提携を生かし)しっかり準備したい」

 マツダにとっても今回の提携の意義は大きい。17年度計画の研究開発費は約1400億円とトヨタの約13%にすぎない。電動化技術やマツダが力を入れるエンジン開発、安全技術、つながる車向け技術など単独ではすべてで競争力を維持できないのが実態だ。電動化ではハイブリッド車(HV)などでトヨタが培ったノウハウを生かし、世界各地での市場変化に対応できるようにする。

 北米市場の深掘りの足がかりを作れることも重要だ。今は北米ではメキシコにしか工場を持たない。マツダが中期経営計画で目指す年5万台の着実な販売増を進めると、20年前半には生産能力が足りなくなるもよう。力を入れる多目的スポーツ車(SUV)の米国生産をトヨタとの共同工場で実現し、世界での供給力を引き上げる。

nikkei.com(2017-08-05)