テスラ、新型EV出荷開始 初の量産車種

日本への出荷は来年以降

 【シリコンバレー=兼松雄一郎】米テスラが28日、量産型の新電気自動車(EV)「モデル3」の出荷を始めた。まずは航続距離が354キロメートルと499キロメートルの2モデルをそろえた。標準モデルの価格は計画通りで、補助金や控除の適用前で、それぞれ3万5千ドル(約388万円)と4万4千ドルから。電池切れの心配が少なく、デザイン性の高い中価格帯EVが登場し、エコカー市場が活性化しそうだ。ただ、右ハンドル対応には時間がかかる見通しで日本への出荷は来年以降になる。

 同日、米カリフォルニア州フリーモントの工場で最初の30台の出荷式に登場したイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は社員を前に「ようこそ『量産地獄』へ。前の車種でも地獄を超えてきた。諸君はベテランだ。地獄に入ったらもう前に進むしかない」と語りかけた。うなるような笑いと歓声が巻き起こる。「ボルボは我々に次ぐ安全性世界2位だ」と競合をあおると会場の盛り上がりは最高潮に達した。

 そしてこれから6カ月の生産立ち上げの苦労を予告し、社員を鼓舞した。

 現行の主力モデルの多目的スポーツ車(SUV)「モデルX」では、はねあげるタイプのドアや後部座席などのデザインを変え、品質が定まらなかった。後に改善されたが、初期製品については米で自動車購入時の影響力が大きいといわれる情報誌「コンシューマーリポート」からは「欠陥商品」という辛辣な評価を下される羽目になった。テスラは経験の浅いベンチャーとして文字通り「地獄」を経験してきた。

 今注文しても出荷は早くても来年末。ツイッターではマスク氏に対し早く出荷しろと批判が集中している。だが、2003年創業のベンチャー、テスラにとって年産10万台を超える生産規模は未知の領域。20年に年産100万台を目指す量産規模を軌道に乗せるのは至難の業だと誰もが分かっている。

 社員には早期予約特典があったため、今回の初回出荷の車を手にしたのは全員が社員だ。まずは社員から不具合のフィードバックを集める。価格が高い方のモデルから先に出荷する。量産が軌道に乗るまでは売るだけ赤字になるためだ。グッゲンハイム証券のアナリストは粗利はマイナス15%で、少なくとも来年半ばまでは赤字が続くとみている。投資先行のテスラではやり切らなければ損失が膨らむ一方だ。その先には破滅が待っている。

 モデル3では過去の経験を生かし、モデルSから大幅な変更は避け量産効率を上げる設計とした。ワイヤハーネス(組み配線)を極力短くするなど、削れる部分は可能な限り簡素にした。価格を下げるため、モデルSではアルミが大半だった車体材料は鉄とアルミが半々になった。部品の仕入れは7割が北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国から。ぎりぎりのコストで生産するだけにトランプ政権の通商政策の影響が経営に直撃する可能性もありそうだ。

 ただ、試乗した感じは非常にいい。モデル3は1千万円近くする同社の高級セダン「モデルS」の廉価版という位置づけだが、操作感はかなり近い。EVらしい静粛さと電池を車体の底面に敷き詰めたことによるどっしりとした安定感、5.6秒で時速96.5キロメートルに達する力強い加速は変わらない。ハンドルの操作感は自在に変えられ、ブレーキもきびきびしている。

 内装デザインは無駄な凹凸がほとんどなく、すっきりとしている。視界が開けた感覚だ。15インチの大画面パネルの位置が上に移動し、より見やすくなった。レーンの自動移動・維持、車庫の自動出し入れといった運転支援機能を61万6千円でつけられるのも変わらない。日本市場ではモデルSは横幅が195センチメートルと都心の駐車場には大きすぎる懸念があったが、モデル3は約185センチメートルと10センチ小さいのは利点になる。

 テイスト的にも独アウディの中型車などから顧客を奪いそうだ。中古市場に出るようになれば価格的にも相当な競争力を持つ可能性がある。

 ただし、ジェットコースターのような高級スポーツ車並みの加速性能、ホイールのデザイン、インテリアの高級感、車内空間の広さといった部分についてはモデルSとは大きな差がある。デザイン的には特に後部座席のシートはあまり特徴がない地味なものになった。

 モデル3の量産が成功するかは全く不透明だ。だが「同じ価格帯の中では最高品質の車」というマスク氏の言葉には確かに説得力があった。

nikkei.com(2017-07-29)