18年はトヨタ単独ルマン? ポルシェはEV転戦

 高級車メーカー、独ポルシェが自動車の世界耐久選手権(WEC)の最上位クラス「LMP1」から今季限りの撤退を決め、モータースポーツ関係者の間で波紋を呼んでいる。ハイブリッド車で競うこのクラスに参戦する自動車メーカーはポルシェとトヨタ自動車の2社。ポルシェが去ることで、2018年の「ルマン24時間」トップクラスの戦いはトヨタだけになってしまう恐れもある。

■ルマン3連覇、トヨタの前に立ちはだかる

 ポルシェは7月28日、17年末でのWECのLMP1からの撤退と、19〜20年シーズンから電気自動車(EV)レースの「フォーミュラE」に参戦を発表した。ポルシェは14年にルマンを含むWECに復帰し、15、16年は製造者部門で総合優勝した。さらにルマンは15年から3連覇し、マツダ以来の日本勢の優勝をめざすトヨタの厚い壁になってきた。

 ポルシェ撤退の観測は以前からあったが、同社は今年初めに18年も参戦する考えを示していた。それだけに関係者のショックは広がる。WECを主催するフランス西部自動車クラブ(ACO)と国際自動車連盟(FIA)は声明で、「ポルシェの急な方針転換に衝撃を受け、彼らの旅立ちを残念に思う」と正直な気持ちを吐露している。

 ポルシェは来季も参戦中の「GTカテゴリー」と呼ばれるクラスは続けるが、最上位のLMP1から去る影響は大きい。すでにポルシェと同じ独フォルクスワーゲン(VW)傘下の独アウディが16年シーズンでWECから撤退済み。最上位クラスでトヨタ以外の競合が不在となれば、ルマンなどのレースの価値そのものが問われかねない。

 ACOとFIAは早速、対策を打ち出す方針を明らかにした。「WECの存続と品質を守る者として、18年シーズンの概要を早急に提唱する。来年は様々なイノベーションが導入される」という。WECは以前から開発コストの高さが新規参入の妨げと指摘されてきた。コスト削減などにつながる新たな施策にも取り組むという。

■存在感高める“格下”フォーミュラE

 ACOなどは9月上旬にWEC改革の詳細を発表する予定。「18年は前例のない年になる」「参戦するチームやシリーズのパートナー、そして耐久レースファンを興奮させるものになる」と結び、強気な姿勢を崩していない。

 モータースポーツは各社が先端技術を競い合い、ファンを魅了してきた。だが今や地殻変動が起き、従来は格下とみられた「フォーミュラE」は活気づく。17〜18年シーズンからアウディが本格参戦。19〜20年シーズンまでにBMW、ダイムラー傘下のメルセデス・ベンツ、ポルシェの独高級車4社がそろう。すでに仏グループPSAの高級ブランド「DS」や英ジャガー・ランドローバーは参戦済みだ。

 ポルシェの場合、走りの性能を磨き長距離走行ができるEV「ミッションE」を開発中で、それを試す場がフォーミュラE。研究開発を担当するミヒャエル・シュタイナー取締役は「独自開発の技術の採用の自由度が増すフォーミュラEは非常に魅力的なカテゴリー」と語る。硬直的なWECの現行制度を暗に指摘している。

 各社の研究開発費が増え続ける中、EV開発の重要度が高まりレースの優先度も変わる。フォーミュラE運営会社のアレハンドロ・アガグ最高経営責任者(CEO)は「モータースポーツを通じて都市の電動革命を主導する」と唱え、各社がこの理念に共鳴している面もある。ちなみに現時点で日本車のフォーミュラE参戦表明はゼロだ。

 もともとブランド戦略が巧みな欧州勢は、フォーミュラEを「EVでも走りを楽しめるクールなレース」(アウディ幹部)と位置づけ、若い世代中心にイメージを定着させたい考え。英仏の政府がガソリン車などの販売禁止を打ち出した「追い風」も吹く。相次ぐ主力の移籍に揺れるWECの巻き返し策だけでなく、日本勢がモータースポーツにも押し寄せる電動化の波にどう対応するかも注目だ。

(加藤貴行)

nikkei.com(2017-08-01)