高級車ブランド続々参戦、「フォーミュラE」の野望

EV技術磨き市場にアピール

 高級車メーカーが新興電気自動車(EV)レース「フォーミュラE」に殺到している。24日には「F1」の常勝軍団を擁する独ダイムラーが、2019〜20年シーズンからフォーミュラEにも参戦すると発表。BMW、アウディの独勢や英ジャガー・ランドローバー(JLR)といった高級車大手が出そろう形になる。運営会社のトップは従来のレースは「(懐古趣味も入った)競馬のような伝統的なスポーツになる」と訴える。その狙いを探ってみよう。

■高級車ブランド、レクサス以外の上位がずらり

 「きょうは偉大な一日だ。メルセデスをフォーミュラEファミリーに迎え、電動革命に参加するメーカーがさらに増えることになる」。フォーミュラE運営会社のアレハンドロ・アガグ最高経営責任者(CEO)は24日の声明でこう述べ、自信をうかがわせた。ダイムラーの「メルセデス・ベンツ」は近年のF1で圧倒的な力を見せている。

 フォーミュラEは14年に始まったばかりのレース。グランプリにちなみ「ePrix(プリ)」という名称で展開し、今週末29、30日にカナダ・モントリオールで開かれる第11、12戦で今の16〜17年シーズンが終わる。

 参戦しているメーカーをみれば、JLRの「ジャガー」や仏グループPSAの高級車ブランド「DS」などの名前が並び、米中などの新興勢力と競り合う構図だ。

 転換点は16年。「電動化にかじを切った独勢が技術を試す場として我々に関心を示した」(アガグ氏)。同年10月に独アウディが17〜18年シーズンからの本格参戦を表明し、今年7月11日に発表した独BMWが続いた(参戦は18〜19年シーズンから)。19年からは高級車の世界販売台数の上位のうち、1〜3位の独勢(メルセデス、BMW、アウディ)と5位のJLRが競い合う。また最近は、EVシフトを鮮明にした世界6位のボルボ・カー(スウェーデン)の参戦も取り沙汰される。仮にボルボも加わると、高級車ブランド大手での参加しないのはトヨタ自動車の「レクサス」だけということになる。

 現状のEVは車載電池や軽量化などの先行投資の段階で、市販しても高コストになる。もっとも高級車メーカーならば先端技術を試し、消費者にアピールする場としての投資をする価値はありそうだ。デジタル時代のマーケティングの面もある。フォーミュラEには、ファンが応援したいドライバーに投票し、人気上位のドライバーはレース中に特別にブースト(加速)できるといった「デジタル時代に沿ったファンを巻き込む」(アガグ氏)仕掛けがある。各社は新時代のレースで露出を増やす効果も期待できる。

■広がる「ファミリー」、日本にも期待

 日本ではテレビ朝日がフォーミュラEの放映権を持つ。だが、日本車の参戦や日本で開催されていないためか知名度はそれほど高くない。もっともホンダが参戦するF1、トヨタ自動車が奮戦中の世界ラリー選手権(WRC)や世界耐久選手権(WEC)と同じく国際自動車連盟(FIA)の管轄だ。ちゃんとレースとしてのお墨付きがある。

 フォーミュラEの舞台は都市部。郊外のレース場で甲高いエンジン音を響かせる従来型レースのイメージとは正反対だ。今シーズンはニューヨークやパリ、ベルリン、香港などでEVが走破した。アガグ氏は「環境意識の高い都市と話をしてきた。自動車メーカーが多く集まる日本でも実施したいが、規制が厳しい」と明かしている。

 地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」に多くの企業が支持を表明するなか、フォーミュラEの位置づけも変わりつつある。運営会社のスポンサー収入は年5割増が続く。自動車メーカーだけでなく、スポンサー企業も注目してきた証しだ。

 それぞれの目的は明確だ。米半導体大手クアルコムはワイヤレス給電技術の実験の場としてレースを位置づけている。国際物流大手ドイツポスト傘下のDHLは配送車両をEVに切り替え中。イタリア電力最大手のエネルは欧州・南米などで再生可能エネルギーに投資を続け、時価総額では世界の電力大手のトップクラスと投資家の評価も高い。こうした企業の動きをみると、産業界の新潮流を占うこともできる。

 アガグ氏は、将来は社会全体の電動化が進み移動手段の主役はEVになると主張。従来型レースについては、「人は馬で通勤しなくなったが競馬は残っている」と例え、F1などは世の主流から外れても昔ながらのエンジン音などを楽しむ“伝統芸”になると大胆に予測する。

 同時にフォーミュラEをEVに限らず社会に役立つ新技術のお披露目の場にする考え。「仮想現実(VR)は可能性があり、ゲームとeスポーツにも注目している」という。まだ日本企業は「フォーミュラEファミリー」での存在感が薄いが、モータースポーツの新潮流にどうついていくのか見ものだ。

(加藤貴行)

nikkei.com(2017-07-25)