自動運転 もろ刃の先陣 アウディ、市販初の「レベル3」

 市販の自動運転車がいよいよ動き出す。独アウディが11日発表した「A8」は、各社が導入を進める「運転支援」の一歩先の「レベル3」と呼ぶ高度な技術を世界で初めて搭載。車がハンドルや加減速の操作を自動で行う。自動化には事故時の責任問題などリスクも伴うが、開発競争で先陣を切り、完全自動実現への流れをつくれるか。

 スペイン、バルセロナの会場は熱気に包まれていた。往年のスポーツカーなどが次々に登場し、最後にその車は現れた。ルペルト・シュタートラー社長は「人々に1日の25時間目を提供する」と強調。25時間目とはクルマを自動で走らせている時間のことだ。

 A8の運転席に座るとハンドルの右下に「AI」と書かれた銀色のボタンがあるのに気づく。自動運転モードはこれを押すと起動する。6個のカメラやレーザースキャナーで周囲の状況を検知し、車線変更や突然の障害物回避を自動で行う。

 自動運転は機能によって5段階に分類され、A8が搭載するレベル3とレベル2の間には厚い壁がある。日産自動車の「セレナ」や米テスラなどが採用するレベル2はあくまで人が主体。車はハンドル操作や加減速を支援するだけで、運転手は原則としてハンドルに触れていないといけない。

 一方、レベル3からは車が主体だ。走る、曲がる、止まるという基本操作を車が行う。運転手はハンドルを持たなくていい。レベル3ではまだ車の要請に応じ手動に切り替えるといった対応が必要だが、レベル4になるとそれもいらない。

 もっとも、レベル3が法律で明確に認められているのは現時点でドイツのみ。欧州の他の国や米国、日本にはまだ明確なルールがない。自動運転の開発を率いるミルコ・ロイター氏は「法への対応は難しい問題だ」と話す。A8には中央分離帯のある高速道路で時速60キロメートル以下の走行時という制限もある。

 レベル3はトヨタ自動車やホンダも20年ごろの実用化を目指している。アウディが「世界初」にこだわったのには、フォルクスワーゲングループのイメージ回復の狙いもある。15年9月に発覚した排ガス不正問題ではアウディからも逮捕者が出た。イメージ悪化で今年1〜6月の世界販売台数は前年同期比4.7%減。ユーザー層の重なる独メルセデス・ベンツが好調なのとは対照的だ。

 レベル3になると車メーカーを取り巻く環境も大きく変わる。まず事故発生時の責任問題。「運転支援」なら責任は運転者側にあるが、レベル3では原則として自動運転中に起きた事故はメーカー側が責任を負う。走る・曲がる・止まるといった従来の基本性能に加え、IT大手が得意とするセンサーやAI(人工知能)の重要性も増す。

 こうしたリスクを承知のうえで競合に先駆け一歩を踏み出したアウディ。シュタートラー社長は「先進は顧客との約束。技術は将来を左右する」と力をこめた。この決断が吉と出るか凶と出るか。その結果は自動車の未来をも左右する。

(バルセロナ=深尾幸生)

nikkei.com(2017-07-11)