ホンダジェット、アジアへ活路 受注8割は米国市場

 ホンダが小型ジェット機「ホンダジェット」の世界的な販売拡大に向け、弾みをつけようとしている。創業者の掲げた夢を追い、30年がかりで開発した機体が世に出て1年あまり。海外需要の落ち込みが続くなか、ジェット機ビジネスの課題も見えてきた。

 ゆっくり回るターンテーブルの上で、ホンダジェットが照明を反射して光っていた。昨年11月、ホンダは一部メディアに米ノースカロライナ州の空港にある納機場を公開。豪華な演出に面食らっていると、ホンダ・エアクラフト・カンパニーの藤野道格(みちまさ)社長は「航空機を買うという体験は一生に何度もあることではないですから」と話した。

 顧客は機体を眺めながら手続きを済ませ、シャンデリアで飾られた部屋に移って昼食をとると、鍵を受け取って飛び立っていく。1機450万ドル(約5億円)で、顧客は企業や富裕層が中心。2015年末から引き渡しを始め、今年2月までに33機を納めた。

 ホンダ創業者の本田宗一郎氏は幼い頃から空への憧れを持ち、航空機産業への参入が悲願だった。1960年代から構想を温め、86年、機体とエンジンの研究に着手。ただ、社内でも夢物語のように扱われ、計画は幾度も中断した。96〜97年に主翼の上にエンジンを置く常識破りの機体デザインが固まり、12年に米国での量産開始にこぎ着けた。

 7人乗りだが、客室は小型機として最大級の広さ。日本ビジネス航空協会の角替(つのがえ)誠事務局長は「燃費がよく飛行性能も高い」と評価する。これまで100機超を受注。国土が広く、裕福な経営者が専用機を頻繁に使う米国市場が中心で、受注の8割を占める。

■市場は低迷、生産体制にも課題

 事業の成長は米国以外にどう販路を広げていくかがカギだ。欧州やブラジルに加え、昨秋から他の中南米諸国でも注文を受け始めた。中東での受注も検討する。日本での販売は未定だが、成長が続くアジアは有望市場だ。4月には中国の航空機の見本市に機体を初出展し、現地の反応を探る。

 ただ、逆境は続く。全米航空機製造者協会によると、数人〜20人乗りの「ビジネスジェット」の16年の世界出荷は、前年比7・9%減の661機。05年以降では最低で、08年と比べると半分の水準だ。景気低迷が深刻なブラジルや、習近平(シーチンピン)指導部の「ぜいたく禁止令」が続く中国などで需要が減ったのが響いた。米セスナ社やブラジルのエンブラエル社のライバル機もぱっとしない状況だ。

 生産体制にも課題が多い。高い品質が求められる航空機部品の安定的な調達に苦労しており、組立工の習熟も道半ば。米国工場でつくれるのは昨秋時点で月3機ほどで、想定するフル生産時の半分だ。

 15年末の引き渡し開始から5年以内に、航空機事業の単年度黒字を目指していたが、実現は難しそうだ。ホンダの倉石誠司副社長は「ホンダジェットやF1をやる意味は収益だけではない」と話しつつも、中長期的なブランドへの貢献なども見極めた上で、今後の戦略を練る方針だ。(榊原謙)

asahi.com(2017-03-26)