EV化で問われる存在意義、ガソリン車の中核「変速機」

 クルマの電動化が進み、プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)が現実的な選択肢になってきた。

 こうしたなか、ガソリン車の中核部品として進化してきた「変速機」が、パワートレーンのさらなる電動化によってその存在意義が問われる局面に差し掛かっている(図1)。電動化の到達点ともいえるEVでは、基本的に変速機が必要ないからだ。


 実際、日産自動車のEV「リーフ」にはエンジン車のような変速機はなく、代わりに減速機を使ってモーターの駆動力を増幅する(図2)。

 エンジンは特定の回転速度のときに発揮されるトルクが最大に達し、それ以外のときはトルクが急激に落ちる。しかし、クルマは低速時の発進や加速のときに大きな駆動力を必要とし、一定の速度に達すると小さな駆動力でも速度を落とさずに走行できる。

 クルマに求められるこのような駆動力特性を実現するため、エンジン車は変速機が必要となる。エンジンのトルクが出る回転域を保ちつつ、変速機で減速比を変化させることでさまざまな走行条件に対応する。

 これに対してモーターは、停止状態から一定の回転速度までは最大トルクを保ち、その速度以上になるとトルクが落ちる。モーターのこうした回転速度−トルク特性はクルマに求められる駆動力特性に近いことから、EVはモーターに固定段の減速機を付けるだけでさまざまな走行条件に対応した走りができる(図3)。


■モーターと減速機を一体化

 部品メーカーによるモーターと減速機を一体化したモジュールの供給も始まっている。例えば米BorgWarnerは、中国のEVメーカー向けに2017年末にも量産を開始する予定だ(図4)。

 変速機を使わない流れは、ハイブリッド車(HV)にも広がっている。例えば、日産のシリーズHV「ノート e-Power」もその一つ。同車はエンジンを発電のみに使用し、モーターの駆動力で走行する。

 このためリーフと同様に変速機は備えておらず、固定段の減速機でモーター回転を減速して走行に必要な駆動力を得る(図5)。


■従来の機械式を使わないHVも

 トヨタ自動車やホンダは、走行用モーターと発電機を備える2モーター式HVシステムを実用化している。これらは従来のような機械式の変速機は備えない。代わりに搭載するのが電気式CVTだ。電気式CVTは、発電機とモーターの制御で、駆動軸の回転速度を無段変速する方式である(図6)。EV時代に向けてモーター主導で走行するのであれば、エンジンは脇役となる。変速機の役割は少なくなる。


 例えばホンダのHV「アコード」は、70km/h未満の速度ではモーターの駆動力のみで走行し、それ以上になるとエンジンと駆動輪をクラッチで直結してエンジンの駆動力で走行する。この時、エンジンと駆動輪の間にあるのは固定段の減速機だ。エンジンにとって高速走行に適した減速比だけがあればよく、減速比を変える必要がない。

 環境規制が強化される中、HVであっても、モーター走行の比率は高まり、エンジン走行の比率は減っていく。トヨタ自動車が2017年2月に発売した2代目のプラグインHV「プリウスPHV」で、この流れはさらに加速する傾向にあると見られる。

(日経Automotive 中島募)

[日経Automotive2017年4月号の記事を再構成]

nikkei.com(2017-05-08)