EV戦国時代 傍観のトヨタとマツダもいよいよ注力

 今後は電気自動車(EV)の開発に力を入れる――。トヨタ自動車とマツダの“変心”が注目を集めている。

 エコカーに関しては、トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)と燃料電池車(FCV)の量産で先行しており、マツダはガソリン車やディーゼル車などの技術革新で業界をリードしてきた。両社ともプラグインハイブリッド車(PHV)を開発しているものの、EVにはあまり力を注いでいないとみられていた。だが、ここに来てそんな姿勢を変化させている。

 トヨタ自動車は2016年11月17日、EVの開発を担う新たな社内ベンチャーを立ちあげると発表した。トヨタ自動車、豊田自動織機、アイシン精機、デンソーの各社から1人ずつ、計4人が参加して、2016年12月に発足した。

 EV開発は、グループで協力して、小さな組織で従来と全く異なる仕事の進め方をすることでスピードを高め、商品を早期に投入する。

 「中期的にはFCVとEVの2つのゼロエミッションのクルマに取り組む。両方の特徴をそれぞれ生かして、国や地域ごとのエネルギーの課題の解決に貢献したい」。11月8日に開催した2016年4〜9月期の決算発表の場で、トヨタ自動車取締役副社長の伊地知隆彦氏はこう強調した(図1)。

 中期的には、まず近距離移動では実質的にEVとして利用できるPHVに力を入れる。新型「プリウスPHV」を2017年2月に発売するのに加え、2018年には「カローラレビン」のPHVを投入する(図2)。「足元では内燃機関のクルマとHVに相当なウエートで投資しているが、時間が経つにつれて、PHVやFCV、EVへと軸足を移していく」(伊地知氏)。


■「EV強化は方針転換ではない」

 ただし、EV強化はトヨタ自動車にとって方針転換ではないという。「エコカーの本命はFCVだと思っている。航続距離や水素の充てん間などを考えると、現在のガソリン車とほぼ同等の使い勝手を実現できる。究極のエコカーはFCVだ」と伊地知氏は語った。

 それでも同社が目指す水素社会を実現する過程では、さまざまなエコカーの選択肢が考えられる。HVやPHVもあり、さらにゼロエミッションの達成にはFCVとEVという選択肢もある。「(当社は)車種も地域もフルライン=全方位で取り組んでいる。どこかが駄目な場合は別のもので補う。これはビジネス上のリスク管理といってもよい。それは究極のエコカーでも例外ではない。エコカー全てが我々の開発の対象だ」と伊地知氏は語った。

■世界中のメーカーが開発競争

 トヨタ自動車がEVの開発に本腰を入れる背景には何があるのか。米国や欧州では大手からベンチャーまでEVの商品化を加速する自動車メーカーが目立っている。

 米Tesla Motors(テスラモーターズ)は大型セダンの「Model S」、多目的スポーツ車(SUV)の「Model X」に加えて、2017年中にもベースモデルで3万5000米ドル(約375万円)からという従来の半額程度に価格を抑えた小型セダンのEV「Model 3」の投入を計画する(図3)。


 米General Motorsは2016年中にEVの「Chevrolet Bolt」の量産を開始し、納車を始める予定だ(図4)。1回の満充電で走行可能な距離(以下、航続距離)は米環境保護庁(EPA)の基準で238マイル(約380km)に達する一方、価格は約3万7500米ドル(約398万円)に抑える。EVに対する補助金を利用すると実質的に約3万米ドル(約319万円)から購入できるようになる見込みだ。

 ドイツVolkswagenはより大胆な戦略を打ち出している。2025年までに30車種のEVを市場に投入する計画だ。同社の乗用車部門トップであるHerbert Diess氏は2016年9月のパリモーターショーで「2020年に航続距離が最長600kmのEVを、小型車『ゴルフ』のディーゼル車と同等の価格帯で発売する」と語った。ドイツ勢ではBMWやDaimlerもEVの商品化を加速する。

 欧米勢がEVに積極的に取り組む背景にあるのが、世界的な環境規制の強化だ。欧州や米国では二酸化炭素(CO2)などの排出ガスの規制が強まり、ガソリン車やディーゼル車、HVに力を入れるだけでは、自動車メーカーが規制に対応するのは難しくなっている。

 こうした中で環境規制のハードルを乗り越えるためには、EVを強化することが主要な自動車メーカーの戦略には欠かせない。このためFCVで先行するトヨタ自動車も、EVに力を注ぐ方針を決めたのだ。

■マツダもEVを商品化

 こうした流れの中、ガソリン車やディーゼル車の進化に注力しているイメージが強いマツダもEVを商品化する方針を明らかにした。

 「EVの技術開発および商品開発を進めていく。(エンジンを使って航続距離を延ばす)レンジエクステンダーも武器だ。開発と市場投入を考えている」

 マツダ代表取締役副社長執行役員の丸本明氏は2016年11月2日、2016年4〜9月期の決算会見でこう語った。具体的な投入時期は明らかにしなかったものの、「いつ投入するかは、しかるべきタイミングで公表する」(丸本氏)と前向きだ。

 EVはグローバルで投入することを目指している。マツダはEVに加えて、PHVの開発と商品化も進めている。「大型車両にPHVは適している。EVにすると、たくさん電池を搭載する必要があるからだ」(同氏)。マツダはEVを小型車の領域で商品化することを考えている。

 マツダはEVやPHVの開発で、トヨタ自動車と協力する方針も打ち出した。「(EVやPHVなどの)電動車両および、コネクテッドカー(つながるクルマ)の世界における協調領域の技術に関して協議を深めており、順次公開していく」(丸本氏)。

 日本メーカーの中でEVの量産で先行する日産自動車。EV「リーフ」の累計販売台数は既に20万台を突破している。そんな日産自動車が2016年11月2日、エンジン車からEVへの架け橋になるようなユニークなHVを発売した。それが「ノート e-POWER」だ(図5)。エンジンで発電した電力でモーターを駆動するシリーズHVである。


 EVの走りを実現する一方、ガソリンエンジンを搭載することで航続距離の心配をなくした。一般的なEVは、電池容量に限りがあり、航続距離がガソリン車と比べて見劣りする。

 これに対してノート e-POWERは、搭載するガソリンエンジンを発電のためだけに使用する。生み出した電力を1.5kWhのリチウムイオン2次電池にためて、そこから電力をモーターに供給して走行する(図6)。この仕組みにより、ガソリン車を上回る航続距離と37.2km/Lの燃費効率を実現している。


 EVと同様のモーター駆動による高い加速性能や優れた静粛性を実現できるという。急加速や登坂時などには、リチウムイオン2次電池からの電力に加え、エンジンで発電した電力も駆動モーターに直接供給することで、力強い走りを実現する。

■2つの普及の壁が解消へ

 2017年はEVの普及が本格化する転換点になる可能性がある。従来と比べて、価格が手ごろで、航続距離の長いEVが相次いで商品化される予定だからだ。GMのBoltやTeslaのModel 3に加えて、日産自動車のリーフの後継モデルも発売が近づいている。

 米国での価格はいずれも4万米ドル(約425万円)以下で、補助金などを考慮すると実質的に3万米ドル(約319万円)程度から購入が可能になりそうだ。米国基準の航続距離も300〜400kmになることが見込まれる。

 普及の2つの壁とされてきた価格と航続距離の問題が解消されれば、EVの販売は大幅に伸びる可能性がある。EVの“戦国時代”が幕を開けようとしている。

(日経ビジネス 山崎良兵)

[日経ものづくり2016年12月号の記事を再構成]

nikkei.com(2017-01-05)