トヨタ HV戦略に誤算 次世代エコカー、EV世界標準

 トヨタ自動車が電気自動車(EV)の量産にカジを切るのは、ライバルメーカーがEVに注力した結果、次世代エコカーの世界標準となりつつあり、ハイブリッド車(HV)から、水素で動く燃料電池車(FCV)への移行を目指す戦略に誤算が生じたためだ。今後は次世代エコカー開発に全方位で取り組みつつ、世界標準づくりでも主導権を握るため、他社との連携強化を図る。

 「今後10年ぐらいに電動化はどんどん進む。(EV重視は)我々の一人旅とは思っていない。トヨタの動きは想定の範囲内」。日産自動車の西川広人・共同最高経営責任者は7日の記者会見で、EV開発に注力してきた自社の判断を誇ってみせた。

 西川氏が言うようにEVは数ある次世代エコカーの中で一歩抜き出た存在になりつつある。トヨタと世界首位を争う独フォルクスワーゲンは2015年のディーゼル排出ガス不正問題の発覚以降、EV開発に集中。25年までに30車種の新型EV投入を掲げた。中国ではEVベンチャーが続々誕生し、米テスラ・モーターズも高級EVで急成長する。

 こうした事態を招いたのはトヨタ自身だ。1997年に世界初の量産HV「プリウス」を発売して以来、HV技術で独走。正面から対抗できたのはホンダぐらいで、それ以外のメーカーの多くはHVに見切りをつけ、「その次の技術」であるEV開発へと進んだ。

 皮肉にもトヨタがHVを「普通の車」にまで普及させた結果、電池やモーターの低価格化や高性能化が進み、これらを中核部品とするEV普及に拍車をかけた。テスラが17年発売予定の新型EVは500万円以下で、1度の充電で300キロ以上を走れ、今年3月の予約開始から1カ月で約40万件もの予約を得た。懸案だった充電施設も各国で増加。複数の自動車会社が連携し各国政府に働きかけた結果、米国などではHVよりもEVが有利となる環境規制が広がった。一方のFCVは水素から電気を生む装置の量産に手間取り、トヨタが14年に発売した「ミライ」は17年でも生産が年間3000台程度にとどまる見通しだ。

 もっともEVの性能を左右する電池とモーター技術は、トヨタもHVを通じて高めてきた。トヨタは次世代エコカー開発にFCV、EVの他、EVのように充電もできるプラグインハイブリッド車の全方位で取り組みながら、世界標準づくりで失敗を繰り返さないようスズキとの提携協議に乗り出すなど「仲間作り」(豊田章男社長)を進める。【宮島寛、竹地広憲】

mainic(2016-11-08)