【ホンダ NSX 試乗】

高速&ワインディングもヒラリ、SH-AWD の面目躍如


 すでに初期生産分の17年モデル、100台の日本割り当てが完売している新型ホンダ 『NSX』。

 車体をホンダ・アメリカが、パワートレーンを日本が開発した日米共同生産車であ り、オハイオの工場で1日8台がほぼハンドメイドで生産されるのみ。これから注文すれば、納期は18年以降と言われている少量生産車なのである。

 今回、新型NSXを試乗したのは神戸。新型NSXにはパワーユニットシステムを統合し、 ダイナミクスとテイストを制御するインテグレーテッド・ダイナミクス・システ ムが備わり、4つの走行モード(Quiet、Sport、Sport+、Track)を持っている が、ホンダ側から市街地でQuiet、高速走行の阪神高速でSport、ワインティングロードの芦有ドライブウエーでSport+を試すよう、指示された。

 新型NSXのQuietモードによるEV走行でのスタート(約80km/h、2〜3kmまで)、市街地走行については別項に触れているので、ここでは高速走行、ワインティングロードでのパフォーマンスについて報告する。

 2370万円というプライスタグがつけられた新型NSXは時代をリードする新たなスーパースポーツ。ミッドシップだからキャビンの背後に積まれる3.5リットルV6ツインターボエンジンに加え、リヤ、フロント左右の3つのモーターで駆動する「スポーツハイブリッドSH-AWD」が売りである。システム最高出力は581ps、システム最大トルクは65.9kg-mに達する。

 特徴的なのは前輪のトルクベクタリング。前輪左右の各37ps、7.4kg-mのモーター駆動、制御によってアンダーステアを抑制。内側輪に軽いブレーキをかけたり、 外輪により多くの駆動力を発生させるなどしてラインとレース性、旋回性能を劇的に向上させているのだ。

 さて、Quietモードのまま阪神高速のゲートをくぐり、アクセルを全開にしてみると、血の気の引くような加速は得られなかった。これはQuietモードだとエンジン回転が4000回転に抑えられ、排気バルブも制御されているため。Quietモードでは581psではなく約325ps程度のパワーに抑えられているのである。

 そこでインテグレーテッド・ダイナミクス・システムのダイヤルをSportに切り換える。するとメーターディスプレーが変化し、いかにも581psのシステムパワーがみなぎるようなアクセルレスポンス、吸排気音に変化。QuietとSportモードではアクセルペダルのストロークまで変わるのだ。

 東京の首都高速同様、阪神高速の路面はトラックなどによって痛めつけられ、相当荒れた路面もあるのだが、フロント245/35ZR19、リヤ305/30ZR20というタイヤを履く新型NSXは市街地の印象同様、素晴らしくフラットで、段差や荒れた路面でも不快なショック、振動を伝えにくい上質な乗り心地を提供してくれる。

 始めてステアリングを握るNSX、始めて走る阪神高速でも過度な緊張は強いられない。いや、かなりリラックスした自分がいた。

 しかしいったんアクセルに力を込めれば、なるほどシステム出力581psの圧倒的な 加速を背後から襲ってくる咆哮とともに味わえる。それでも車体の安定感は秀逸。 路面に張り付いたようなフットワーク、直進感を示し、ステアリングがフラつくことなどない。スポーツハイブリッドSH-AWDの面目躍如と言っていいだろう。

 短距離ながら痛快爽快な高速走行を体験し、阪神高速を降りたあとは再び市街地。 それも神戸の高級住宅街である。迷わずQuietに切り換え、静かに滑らかに走る。このスーパースポーツの持つ2面性もまた、新型NSXの魅力、切り札だ。

 いよいよワインティングロードの芦有ドライブウエーに入る。ここでも料金所ゲー トで、ミラー・トゥ・ミラー約2.2mの車幅に緊張することなく、ブースギリギリにつけられた。何しろ前方、横方向の視界がスーパースポーツとして格別にいいからだ。

 Sport+にセットした道幅の狭いワインティングロードでは581psのシステム出力というより、トルクベクタリング効果に満足できた。タイトコーナーでも駆動力が抜けることなくグイグイ曲がる。下りのアクセルオフ、ブレーキング時には自動ブリッピング(車外のほうがより盛大に聞こえる!)で痛快にシフトダウン。だから走りやすい。エンジンを高回転まで回すとキャビンに豪放な吸排気音が充満するが 、その一部はあえてキャビンに導く演出である。

 Sport+での走りは1780kgの車重を感じさせない軽快さ、強烈な安定感=スタビリティ、曲りやすさが支配する。その走りにかつてないほどの感動が得られたか? と言えば、スーパースポーツにして構えることなく乗れる走りやすさのほうが印象 深かったのだが、自身のものとなり、走り込めば印象は大きく変わるに違いない。

 細かいことを言えばインテリアの一部プラスチッキーな加飾、収納、ボトルホルダーの使い勝手などに不満はないわけではないが、スポーツハイブリッドSH-AWDを用いたホンダ渾身の新世代スーパースポーツの世界、歴史は始まったばかり。これからのたゆまぬ進化に期待したい。

 ちなみに今回のラ・スイート神戸オーシャンズガーデンを起点に神戸の市街地〜阪神高速〜芦有ドライブウエー〜阪神高速〜ラ・スイート神戸オーシャンズガーデンまでをけっこうなペースで駆けぬけた実燃費は(2名のドライバーの運転による)8. 2km/リットル。モード燃費12.4km/リットルの約66%、大型ミニバンと変わらない優秀なものだった。

 帰路、ラ・スイート神戸オーシャンズガーデンの敷地内にQuietモードで戻ってきた ときのキャビンの静けさ。それまでの興奮をさましてくれるクールダウン効果が妙に気に入った。ちなみに各色ボディカラーを間近で見た印象で、個人的に新型NSXにもっとも似合うと思ったのはカジノ・ホワイトパール。微妙にシルバーっぽいいい色で、エッジのシャープさとカッコ良さが際立っていた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージングデータは膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、イベントも手がけ、犬との快適・安心自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動も行っている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ムック本「愛犬と乗るクルマ」(交通タイムス社刊)好評発売中。

msn.com(2016-09-26)