NSXはホンダ・ブランドの「ターボ」だ
相手になるのはポルシェぐらい
こんなクルマ他にはない「ワクワク感」届ける
開発責任者に聞く

 ホンダは8月25日、最高級スポーツ車「NSX」の国内受注を始めた。世界初のオールアルミ製モノコック(車体構造)が話題を呼んだ初代の生産中止から約10年ぶりの復活になる。新型は軽量で運転しやすい特徴を継承しつつ、3つの駆動モーターを搭載したハイブリッド車(HV)になるなど最先端技術を詰め込んだ。開発責任者を務めた本田技術研究所米国法人のテッド・クラウス氏に話を聞いた。

 −−ファミリー車や小型車が主力のホンダにとって、2370万円のNSXを発売する意味は

 「存在意義は3つある。まず次世代技術に挑戦し、次世代の後継者やリーダーを育成するチャンスが得られる。次に特別な顧客と接点を持つことができることだ。世界中を見ても、同水準の技術を提供しているクルマはない。最も近い競合でも、大きく価格が離れたポルシェ『918』しかない。最後にホンダに期待されているワクワク感を与えられる。ブランド(の価値向上を加速する)ターボチャージャーとも言える。『ホンダを知っているか』と質問したときに、『NSXがある会社でしょう。知っているよ』と言ってもらえる。たとえ、『ホンダ車を持っているか』と聞いた際、持っていない人でも心の中では『NSXが欲しい』と思ってもらえる」

 −−初代から受け継いだNSXらしさは

 「新技術を実験して試み、スポーツ車としての価値を増していることだ。例えば、自動車として初の3次元熱間曲げ焼き入れの高張力鋼板フロントピラー(支柱)を採用した。クルマは運転手の前に出ず、後ろからサポートするものだと思う。人間に自然になじむ『ヒューマンフィット』のアイデアだ」

 −−先端技術を積極的に採用している

 「革新的な技術は大きく3つある。一つはフロントピラーで、高張力鋼板を加熱してデザインに合う形にして冷却。10円玉大の細い連続したチューブ状になり、強度を保ちつつ前方の視認性が上がった。2点目は高速冷却技術を用いた『アブレーション鋳造』を採用したことだ。鋳造によって剛性を持ちつつ変形しても壊れないので、衝突のエネルギーを吸収する。3点目が『スーパーハンドリング』と呼ばれる可変駆動トルクだ。曲がる際に左右のタイヤでトルクを変え、運転手のハンドル操作をクルマに伝えやすくする技術になる」

 −−ハイブリッド技術を導入した経緯は

 「開発チームの日本人、米国人のエンジニアが一緒に開発した。ハイブリッドは『いいよね』という積極派と、『ちょっとね』という消極的の両方の考え方があった。実際に試作車を作りフィーリングや性能を確認し、いいんじゃないかと確認できたので、採用しようということになった」

 −−米国を生産拠点にした理由や、スポーツ車市場の動向は

 「開発は世界規模で考え、最新鋭のノウハウを広げていきたいと考えたからだ。販売は北米が50%を占める。スポーツ車の世界市場は、近い将来まで徐々に伸びが続いていくだろう。米国など成熟市場はベビーブーム(団塊の)世代がいて、退職後の人生を楽しみたいと思っている。一方で、中国など成長市場は中国は、まだじっくりとスポーツ車を体感したことがないような若い消費者として存在している」

 「スポーツ車でもいろいろな価格帯がある中で、NSXは特別なものを追い求める人々が主な購買層だ。こうした人々は市場が(景気変動などで)拡大したり、縮小したりしても安定して存在する。その購買層に対して提供し、世界的にホンダのブランドを訴求していきたい」

sankei.com(2016-08-27)