パワーユニットの信頼性大幅向上!

F1で連続入賞、ホンダの逆襲開始。

 ホンダが好調である。

 5月29日に行われたモナコGPでは2台そろって入賞。これでロシアGPから3戦連続での入賞を果たした。ホンダがマクラーレンと組んで復帰した2015年以来、初めてのことである。

 6戦目のモナコGPを終え、獲得したコンストラクターズポイント24点は、昨年1年間で得た27点に迫る。

 この勢いの源になっているのが、改良したホンダのパワーユニットにあることは間違いない。ホンダは、いかにしてライバルたちとのギャップを埋めることに成功したのか。

 昨年からもっとも大きく向上したのは、信頼性である。

 現在のF1は、1年で使用できるパワーユニットの基数がレギュレーションで決まっている。昨年、1年目のホンダに許されていた基数は5だったが、結果的に11基ものパワーユニットを使用してしまった。現場監督的な役目を担っているチーフエンジニアの中村聡は、信頼性に苦しんだ昨年を次のように述懐する。

「ドライバーやチームには申し訳なかったですが、昨年はすべての面で時間に追われていました。何か新しい部品を投入するときには事前に耐久性をチェックするというのが基本ですが、そこまでの余裕がなかった。さらに次から次へと問題を解決しなければならないために、パワーユニットが継ぎ接ぎだらけになってしまい、メンテナンス面にも問題がありました。例えば、昨年のパワーユニットはMGU-Hとターボを外すのに10時間ぐらいかかっていたので、その部分に問題が出た場合は、ICE(エンジン本体)に問題がなくても、パワーユニットごと交換しなければならないこともありました。それが今年は3分の1ぐらいで交換できるようになるまで、レイアウトが整理されました」

マシントラブルが激減し、パワー不足も改善。

 モナコGPを終えた時点で、今シーズンもっとも多くのパワーユニットを使用しているのは、じつはメルセデスとルノー(レッドブル)。ホンダは開幕戦でアロンソが大クラッシュして全損した以外、ハード面でトラブルを起こしたのは、バーレーンGPでバトンがリタイアしたときのみ。モナコGPで、バトンは4レース連続で走りきったことになる。これはホンダにとって、復帰後初めてのことだった。

 昨年のホンダは、パワー不足にも苦しんだ。特にブレーキとターボによって回生される電気エネルギー(デプロイ)不足が深刻だった。日本GPでは、アロンソが「GP2エンジン」と嘆いたほどである。それが今年は大きく改善。モナコではコース特性も関係しているものの、あのメルセデスAMGのロズベルグをアロンソが抑えきった。

制御系のソフトウェアをレースごとに改良。

「昨年、デプロイが十分に行えなかった理由は、ターボが弱かったからです。今年はその部分を大幅に変えて、MGU-Hを機能させています」(中村)

 しかし、ホンダがパワーアップしたのは、デプロイが向上したことだけが理由ではない。

 じつは、ホンダは毎戦のように、制御系のソフトウェアをアップデートしている。それは、今年のパワーユニットが昨年よりもデプロイが改善されている分、昨年と違う使い方ができるようになり、それにあわせて新しいエネルギーマネージメントや、その変更に適応するよう制御系のデータも変えなければならないからだ。信頼性の確保とデプロイの向上に目処がついたからこそ、踏み入れることができた新しいチャレンジだった。

コンマ3秒の圧縮が大きなアドバンテージに。

 このチャレンジのひとつに、予選モードの使い方がある。F1のパワーユニットというのは、いつも同じような使われ方をしているわけではない。予選での一発のタイムを出すときやレースでオーバーテイクしたいときなどは、フルパワーで走ることができるモードにドライバーがステアリング上のスイッチを切り替えている。だが、信頼性の観点から昨年までのホンダは、この予選モードをレースでは限られた時間しか使用することができなかった。

 今年から新しくホンダのF1プロジェクト総責任者となった長谷川祐介は、この部分に着目した。

「それをやっても劇的にパフォーマンスが向上するわけではありません。でも、それによって1周でコンマ3秒速くなるのであれば、10周で3秒、50周で15秒稼げるわけですから、大きい」

 第4戦ロシアGPでは、レース前に長谷川総責任者はエンジニアたちを集め、「レースでもできるだけ長く予選モードを使ってみてはどうか」と議論。試してみる価値はあるというエンジニアたちからの同意を得て、レースでも予選モードをできるだけ長く使用させる決断を下し、パワーがものをいうサーキットで、見事2台そろって入賞を果たした。

メルセデスに追いつくために「やらまいか!!」。

 もちろん、このような改善を経ても、ホンダが目標としているメルセデスとの間には大きなギャップがあり、チャンピオンを目指すホンダには多くの課題が残っている。その差を縮めるには、もう一段高いハードルをクリアしなければならない。そして、クリアするためには、新しいチャレンジが必要となる。

 いまF1では、「ホンダはいつトークンを使用するのか?」という話題が飛び交っている。

「やらまいか!!(やってみなければわからない。だからこそ、やってみる価値がある)」

 本田宗一郎さんが、そう天国から叫んでいるように聞こえる。

尾張正博

msn.com(2016-06-05)