ホンダ、自動車メーカーで唯一増益の裏事情

決算発表を2週間延期し、業績への影響を精査


 「このたびは決算発表日の変更にあたり、皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました」

 当初予定されていた4月28日から2週間遅れの実施となったホンダの2016年3月期決算会見。冒頭は岩村哲夫副社長のお詫びの言葉から始まった。

 ホンダが発表した2017年3月期の業績見通しでは、北米やアジアでの販売が伸びることを前提に、世界販売が前期比3.6%増の491万台。営業利益は19.2%増6000億円と2ケタ増益を見込んでいる。

自動車メーカーの中でホンダのみ増益

 為替影響だけでも9350億円の営業減益要因となるトヨタは、今期40%の大幅減益を発表しており、マツダやスバルも25%の大幅減益という計画だ。燃費不正問題で業績見通しの発表を見送った三菱自動車を除けば、自動車メーカー全6社の中でホンダだけが唯一、営業増益を見込んでいることになる。

 だが、2016年3月期の実績を見れば景色は一変する。ホンダを除く5社すべてが過去最高の営業利益あるいは純利益をたたき出した一方で、ホンダだけが前期比24.9%の営業減益と、自動車メーカーの中で独り負けという結果で終わったのだ。

 前期から今期にかけて、業績の動向がホンダだけ競合他社と反対なのは、「タカタ問題」に主因がある。ホンダはタカタ製エアバッグの搭載台数が自動車メーカーの中で最も多く、その分、費用負担も重くのしかかる。決算発表を2週間遅らせたのもタカタ製エアバッグに関する品質関連費用の見積もりに時間を要していたことが1つの要因だ。

 5月4日、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)はタカタ製エアバッグのリコール対象拡大を指示し、乾燥剤を使用していないインフレーター(ガス発生装置)をすべてリコールの対象とした。これを受けでホンダは、2016年3月期第4四半期にインフレーター2100万個を追加でリコール対象とし、2700億円を品質関連費用として計上した。

 リコールのために引き当てた費用は2016年3月期通期で4360億円と巨額だ。販売台数の増加やコスト削減などで3300億円あった増益要因はすべて、このリコール費用で吹き飛ばされてしまった。「リコール費用を除けばそれなりに利益は出ているが、タラレバを言っても仕方がない」(財務を担当する竹内弘平専務)。

 2015年3月期から2016年3月期の2期に渡って積み上げた5560億円のリコール費用をもって、乾燥剤なしのインフレーター累計5100万個分は「すべての引き当てが済んだ」(岩村副社長)ことになる。これにより会計上はやっとタカタ問題にメドがつく。今期に為替影響による3030億円の減益要因を吸収し、自動車メーカーで唯一の営業増益が見込めるのも、前期の巨額リコール費がなくなることが大きい。

タカタとの費用分担は難航が予想される

 とはいえタカタ問題の先行きはまだ不透明。リコール費用の分担については、エアバッグ異常破裂の原因究明調査の結果に基づいてタカタと交渉を開始する予定だ。場合によっては前期までに計上した費用の一部をタカタに請求し、今期以降に戻入益が発生する可能性も残っている。ただしタカタの費用負担が重くなった場合は、同社が債務超過に陥って支払い不能になる可能性もあるのが悩ましいところだ。

 乾燥剤が入っているインフレーターについては、現状は問題がないという前提で使用しているが、これらも2019年末までにタカタが安全性を証明できなければリコール対象が乾燥剤なしのものにまで拡大するリスクが残っている。タカタ問題はいつまでホンダを翻弄することになるのだろうか。
宮本 夏実 東洋経済 記者

toyokeizai.net(2016-05-15)