米テスラ、攻め続けるマスク氏 「2020年に100万台」宣言

 【フロリダ州ケープカナベラル=兼松雄一郎】米電気自動車(EV)メーカー、テスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が4日、決算発表後の電話会見で従来の強気目標をさらに前倒しし、2020年に昨年の20倍にあたる年産100万台を達成すると宣言した。会社の命運を大きく左右する量産車の生産立ち上げでもあくまで攻めの姿勢を貫く。

 マスク氏は今、生産ラインの横に机と寝袋を持ち込み、寸暇を惜しんでテスラの命運を左右する生産現場をてこ入れしている。

 予約が絶好調で、年産100万台が実現した時には、その半分以上を占めるとみられる小型セダン「モデル3」の量産が来年後半から始まる。テスラはコストを下げるため、生産しやすい設計にしたモデル3のデザインをほぼ固めた。いよいよ試験生産が本格化する。

 IT(情報技術)の経営手法を自動車産業に持ち込み、ベンチャーには不可能ともいわれたEV市場で旋風を巻き起こしてきたマスク氏。今度はものづくりで、5年で20倍の生産規模という困難な目標を課した。同氏は社内外に対して「部品の量産体制を整える期限を来年7月1日までとする」と宣言した。

 「これは難しい日程だが、6000点の部品のひとつでも欠ければ製品はつくれない。これに間に合わせられない部品メーカーは使わない。その場合は自前でやり遂げる。多くの部品メーカーは『モデル3』の生産に参加したがっている」(マスク氏)

 テスラは部品メーカーに対し、経営陣だけでなく、現場のチームにも期限内の達成を約束するかどうかの確認を取らせている。開発中の工程も細かく管理する。

 テスラは3月末、出荷が本格化する2年近くも前に「モデル3」の発表会を開いた。テスラにとっては早い時期からデザインなど手の内を競合に明かす賭けだった。だが、その賭けに勝った。わずか1週間で昨年の出荷台数の6倍以上に受注が積み上がった。売り上げとして皮算用した場合は110億ドル(約1兆2000億円)以上になる。

 実際の需要の大きさをみせつけたことで、部品メーカーに対するただでさえ強気の交渉姿勢はさらに勢いを増している。

 「テスラは実際にものをつくる『メーカー』であり、ものづくりから革新が生まれると信じている。生産を委託しているアップルやグーグルとは哲学が異なる。ものづくりの最高峰に是非参加してほしい」

 攻めの姿勢を貫くマスク氏は、ピンチはチャンスとばかりに決算会見を使って異例の人材募集をかけた。

 4日、「モデル3」のライン立ち上げが本格化してくる重要な時期に生産担当の2人の副社長が退職することが明らかになり、株式市場では同社株は4%下げた。マスク氏から常に最高の成果を求められるテスラでは、幹部の離職はいまや年中行事だ。

 一方で壮大な構想を掲げ、当代随一の起業家と評価されるマスク氏の下で働きたいという人材は後を絶たない。数週間の内に代わりの生産の専門家が入社するという。

 「モデル3」の早期発表は財務面の賭けでもあった。うまく予約が積み上がれば材料視され、株価が高止まりすることでより有利な条件で量産に必要な資金の調達が可能になる。実際、発表後の数日は株価が上がり続け発表前に比べ15%高い水準を付けた。マスク氏は「どこかの時点で量産のために株式発行などで資金調達するだろう」と語った。

 好調な予約に一息つく暇もなくマスク氏は攻め続けている。

nikkei.com(2016-05-05)