ホンダ、水素社会へ提案 供給施設の設置1日で

 ホンダは18日、水素で走る新型燃料電池車(FCV)の試乗会を開いた。1日で設置できる小型水素ステーションや、緊急時に大型電源として使える給電器も合わせてホンダが目指す水素社会の姿を示した。コストが高くインフラ整備がなかなか進まない水素社会のボトルネックを解消する提案により、先行するトヨタ自動車を追いかける。

 試乗会は本田技術研究所がある埼玉県和光市で開いた。新型FCV「クラリティフューエルセル」に乗り込んでアクセルを踏むと、揺れや音もなく静かに発進。さらに踏み込むと「ヒュイーン」という音とともに、強い加速で背中がシートにグッと押しつけられた。

 時速60キロメートルになっても振動はほとんどない。エンジンの回転音が大きくなるガソリンエンジン車と違い、高速になっても静かなままだ。

 FCVを量産するのはトヨタとホンダだけだが、ホンダはトヨタに先行を許した。トヨタは14年12月に4人乗りの「ミライ」を723万円で発売。ホンダは1年以上遅れ、価格は40万円以上高い。それでも開発担当者は「私たちは一つ先に行っている」と言う。

 自信の根拠はミライよりも長い航続距離と、15%強いモーターの最高出力が生む機敏な走り。そして定員が1人多い5人乗りであることだ。駆動機構をボンネットに収めて室内空間を広くした。

 だが、FCVは車の性能向上だけでは普及しない。決め手が燃料を供給する水素ステーションだ。国内に80カ所強ある商用の水素ステーションは建設費がガソリンスタンドの約5倍の4億〜5億円。国が補助金を出しているが整備は遅れ、場所が大都市圏に偏るため地方への遠出が難しい。

 ホンダが今回、FCVとともに公開した「スマート水素ステーション(SHS)」は、設置面積が従来の20分の1から30分の1。設置コストは10分の1程度だ。トラックで運べ、1日あれば設置できる。撤去も簡単で需要が多い場所にすぐ移せる。太陽光など再生可能エネルギーで水を電気分解して水素をつくる。

 ノズルをFCVの充填口に差し込むと、3分程度で満タンになる。16年末までに少なくとも計8カ所で稼働する計画。大都市だけでなく東北や四国といった地方でも積極展開し水素供給網を手厚くする。トヨタのミライも使えるようにしてFCVの普及を促す。

 さらに、FCVから電気を家庭や医療機器向けに供給する外部給電機器も開発した。電気自動車(EV)の数倍の出力があり、水素を満タンにすれば一般家庭7日間分の電気をつくることができる。「災害時に『走る電源』としての活用も期待したい」(本田技術研究所)という。

 エコカーのライバルとなるEVは車種や参入企業が増えており、国内の急速充電設備は6500カ所に達する。FCVはインフラ面で差を大きく広げられている。車の生産も現在はほぼ手作りに近く、コスト低減は道半ばだ。エコカーの覇権争いで勝ち残るには技術革新を続けて普及を急ぐ必要がある。

(工藤正晃)

nikkei.com(2016-04-19)