注目集まる「燃料改質エンジン」とは何か


 次世代の自動車エンジン技術として、注目が高まっているのが燃料改質です。日本の大手自動車メーカー各社が力を注ぎます。自動車エンジンの今後の進化を支える重要技術になる可能性を秘めます。

 燃料改質エンジンとは、自動車燃料を改質して別のものに変え、燃えやすくするもの。多くの手法がかねて提案されてきましたが、最近注目を浴びるのが燃料を水素に変えて、EGR(排ガス再循環)と組み合わせる手法です。これがなかなか秀逸なアイデア。排熱回収効果と相まって、ガソリンエンジンの熱効率を大きく高められる可能性があります。

 具体的には、ガソリン燃料と排ガスを触媒に通して水素に変えて、吸入空気に混ぜます。水素は燃焼速度が極めて速く、エンジン筒内での燃焼を速くできます。EGRで排ガスを多く気筒内に戻すと燃費は良くなるものの燃えにくくなりますが、それを防げるわけです。

 国内の大手自動車メーカーで特に熱心なのが日産自動車です。近年、研究成果を積極的に発表します。トヨタ自動車も、エンジンの熱効率50%達成を目指すロードマップで、燃料改質を重要技術と表明しました。ホンダは、主流の水素に変える手法と異なる方向で熱心です。マツダは公表しないものの、日経Automotiveに対して取り組んでいることを明かします。

 日本政府も、燃料改質技術の実用化を後押ししています。国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「革新的燃焼技術」で、燃料改質を基盤技術の一つに位置付けました。早稲田大学教授の大聖泰弘氏が中心になって研究を進めています。

 各社が燃料改質エンジンに注目するのは、比較的安く燃費性能を大きく高められるため。日産は、単気筒エンジンを使った実験で熱効率を約6%と大幅に高める成果を発表しました。ホンダは独自路線で実用化に時間がかかりそうですが、20%以上と驚異的な向上幅を狙います。

 コストはそれほど高くありません。例えば日産が取り組む手法の場合、ガソリンエンジンで一般的なEGR(排ガス再循環)に改質器を加えるくらい。排ガスを吸気側に通す管(EGR路)の途中に、触媒と燃料噴射装置から構成する改質器を設置して実現します。

 改質用の触媒は、ガソリンエンジンで一般的な排ガスの後処理装置である三元触媒に似ています。主成分はロジウムで、三元触媒から白金とパラジウムを取り除いたもの。製法は三元触媒とほとんど同じです。排気量の違いや貴金属の価格次第ですが、排気量1〜2Lのエンジンならば、触媒と燃料噴射装置を合わせて1万円以下のコストを目指せるでしょう。

 エンジンの熱効率を高める取り組みは、0.1%高める技術を地道に積み重ねている状況。一気に2%以上高められて1万円以下の追加コストならば、「費用対効果」に極めて優れた技術と言えます。しかも耐久性の課題を解決するメドも立ってきました。

 実のところ燃料改質技術の歴史は長く、最初の論文は1960年ごろのものとされます。これまで、コストと性能が見合わないとして何度も頓挫してきました。最近になって自動車エンジンでよく使われるようになってきたEGRと組み合わせるアイデアが登場。再び脚光を浴びています。今度こそ実用化にこぎ着けてほしいものです。

清水 直茂

nikkeibp.co.jp(2016-04-13)