ひび割れ・キズを自ら再生 先端素材の開発続々
航空機や車向け

 ひび割れやキズが生じても自分で直して強度を保つ先端材料の開発が、国内の大学や企業で相次いでいる。航空機エンジン向けの高強度セラミックスや、自動車などの骨格として使われる炭素繊維複合材料(CFRP)、電気配線などに自己修復機能を持たせた。耐久性を高め維持費を低減することで高機能材料の用途が拡大し、新たな市場創出につながると見られる。

 日本はCFRPで圧倒的なシェアを持つなど、高機能素材に強い。新素材や金属に自己修復機能を持たせることで、高温高圧などの過酷な環境や修理が困難な場所での利用が広がり、国際競争力の強化につながるとみられる。

 横浜国立大学の中尾航准教授らは、ひび割れが生じても10分で自己修復する航空機エンジン向けの高強度セラミックスを開発した。表面に亀裂が生じると、高温の空気が入り込み、セラミックスの繊維の中に封じ込めた自己修復材の炭化ケイ素が溶け出す。これがひび割れを埋めて硬化し、破断を防ぐ。

 現在のエンジンはニッケル合金だが、セラミックスはより軽く、置き換えれば燃費を約15%低減できる。エンジンに求められる高温高圧にも耐えるが、金属に比べてひび割れが生じやすいことが問題になっていた。

 今後、国内の航空機部品メーカーと共同でエンジンの試作を進め、2025年ごろに燃焼試験を実施。実用化につなげる考えだ。

 富山県立大の真田和昭准教授らとニッセイテクニカ(富山県上市町、兼子正宏社長)は共同で、自己修復するCFRPを開発した。

 炭素繊維の間に、接着剤が入ったカプセルを混ぜこんだ。ヒビが入るとカプセルが割れ、接着剤がしみ出て修復する。10日後には完全に固まり、以前と同等の強度を回復する。自動車や航空機の構造材、人工衛星の部材などの用途を見込んでいる。

 早稲田大学の岩瀬英治准教授らは、断線しても自然に復旧する電子回路を開発した。配線の表面に金のナノ粒子を含む溶液を塗ったもので、配線が切れると断線部に金粒子が引き寄せられ、間隙を埋める。実験では幅4マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの傷を修復できた。

 修理が困難な床下などの中の電気配線のほか、体に貼り付けて使う医療センサーや持ち運び用の精密機器など、折り曲げや振動が多い場所で使う電子回路に利用できるとみている。

 関西ペイントは、屋根や壁用の鉄板に自己修復機能を持たせる新たな保護剤を開発した。キズが付いたときに生じる微小なサビと反応し、被膜を作って腐食を止める。

nikkei.com(2016-03-29)