ホンダ、ベトナム再攻勢 バイク飽和に危機感

 ベトナムの二輪車市場に進出して20年。シェア70%を固めたホンダが、新たな課題に直面している。「つくれば売れる」時代の終わりだ。売れ筋に合わせて生産車種を機動的に変えられるラインの導入や、趣味で楽しむ中型車の市場づくりなど、攻めの姿勢で成長持続を狙う。インド、インドネシアと並ぶ「バイク王国」のうち、最初に市場が飽和してきたベトナム。ここでの試行錯誤が新興国の二輪車事業の未来を占う試金石となる。

 ハノイ北部、ビンフック省にあるホンダベトナムの第3生産ライン。100メートル超のベルトコンベヤーの上をゆっくりと移動するバイクの車種がカブ型「ウエーブα」からスクーター型「ビジョン」に途中で変わった。

 同社は昨年7月から、ベトナムの3工場全4ラインのうち、2ラインを異なる車種を同時に生産できる混流生産ラインにした。新興国では先進的な取り組みだ。

 背景には市場の変化がある。ここ5年間のベトナムでの販売はほぼ横ばい。ハノイ、ホーチミン市といった大都市では市場が飽和しつつある。

 これまでは単一車種を量産すれば良かったが、市場が頭打ちになれば、品ぞろえを増やすなどの対応が必要だ。それには納期短縮や在庫圧縮につながる混流生産が有力な武器になる。混流生産ラインを担当する約140人の工員は優秀な人材を選んで教育した。

 ホンダは2015年度に世界で1719万台の二輪車を販売する計画。ベトナムは15年暦年で199万7千台と、大国のインド、インドネシアに次ぐ3位につける重要市場だ。ホンダは1967年にタイで生産を開始するなどいち早く東南アジアに進出。ブランドを築いたことが、ベトナムでも優位に働いた。

 ベトナムの販売店数は680店とヤマハ発動機の1.4倍。インドネシアは同1.5倍の1800店だ。ホンダの「ドリーム」に22年間乗るグエン・チュン・フンさん(42)は「どこでも部品が安く買えるので修理しながら乗っている。あと10年は乗る」と話す。

 ライバルのヤマハ発も東南アジアのネットワーク強化を急ぐ。インドネシアの販売店数を2018年までに今の2.7倍の3200店に増やす。

 そんなホンダが直面する市場の飽和。現状打破のため照準を定めるのは地方都市だ。年内にも農業従事者を主な対象としたクレジット販売をベトナムの信販会社と組んで始める。販売店の評価制度も見直した。顧客の来場者数、展示のわかりやすさ、部品の備蓄数など300項目を審査し、1000点満点で調査する。優良店は表彰し、だめな店は指導する。

 生活の足としてのバイクから、趣味の中型バイクを売る時代を見すえた取り組みも始めた。15年2月から始めたレースだ。タイから輸入し販売している中型車「MSX」などが参加できる車種限定のレースで、昨年はビンズン省、ダナン市など4カ所で開催し、約100人が参加した。

 将来は自動車との競争も始まる。ベトナム計画投資省は現状2000ドルの1人当たり国内総生産(GDP)が2020年には3200〜3500ドルになると予測する。3000ドルは車が急速に普及するとされる分岐点だ。

 四輪車も手がけるホンダにとって、四輪車の市場の立ち上がりは会社全体ではプラス。だが、二輪車部門は市場を衰退させるわけにはいかない。東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体(AEC)などで輸入四輪車の関税が下がれば、二輪車には不利に働く。

 ホンダベトナムが10日、ハノイで開いた20周年イベントで加藤稔社長は「乗り換え、趣味用の2台目など需要を開拓すればまだまだ開拓できる」と語った。日本は四輪車の成長と引き換えに、二輪車市場は縮小した。その轍(てつ)を踏まず、持続的な成長を果たせるか。ホンダの挑戦は続く。
(ハノイ=富山篤、東京=香月夏子)

nikkei.com(2016-03-12)