ホンダ、燃料電池車を発売 水素充填1回で750キロ走行


 ホンダは10日、量産型の燃料電池車(FCV)「クラリティフューエルセル《を国内で発売したと発表した。走行時に二酸化炭素(CO2)を出さない次世代エコカーという位置付けで、1回の水素充填で世界トップクラスの約750キロメートルを走行できる。トヨタ自動車が2014年末に発売したFCV「ミライ《に続く市販車が登場し、世界に先駆けて日本市場でFCVの競争が始まる。

 価格は1台766万円。ミライよりも約43万円高いが、水素を満タンにした航続距離は約100キロメートル上回る。小型化した燃料電池スタックなどの駆動装置をボンネット内に収め、セダン型のFCVとして世界初の5人乗りを実現した。充填時間は3分程度と、ガソリン車と同じような使い勝手で普及を目指す。

 栃木県内の研究所で少量生産から始め、16年度は自治体や企業向けを中心にリース販売する。日本で1年間で200台の販売を目指す。17年後半には個人への販売も始めたい考え。

 16年末までに米国カリフォルニア州や欧州にも投入する予定だ。八郷隆弘社長は「水素エネルギーは輸送や貯蔵に向き、FCVはガソリン車に置き換わるモビリティーとして有望《と話し、日米欧で厳しくなる環境規制への対応の柱の一つとして開発に力を入れる。

ホンダ、新燃料電池車は転換点になるか 時間との戦い

 ホンダは10日、燃料電池車(FCV)の新型車「クラリティ フューエルセル《を日本で発売したと発表した。2030年をメドに四輪車販売の3分の2を電動化された環境車(エコカー)にするのが狙いで、新型FCVはその先兵でもある。ホンダとしては高付加価値のエコカーで市場をリードする戦略のスタートに位置づけたいところだが、足元では販売台数を追った従来路線の影響が残る。膨大な初期投資を伴う次世代エコカーの立ち上げには資金の効率的な配分も上可欠で、「量から質へ《の転換は時間との戦いになってきた。

 「FCVはガソリン車に代わる次世代の車として有望だ《――。ホンダの八郷隆弘社長は同日、都内で開いた記者会見で水素供給拠点などインフラ整備を含めたFCV普及の取り組みに意欲を見せた。クラリティ フューエルセルは水素と酸素を反応させ電気を取り出す燃料電池システムを従来型に比べ小型化させた。システムは既存のガソリン車にも搭載ができるという。ホンダのエコカー戦略では、30年時点でFCVや電気自動車が販売台数全体に占める比率を15%、プラグインハイブリッド車(PHV)とハイブリッド車(HV)を50%強にする。八郷社長は「(利用者など)いろいろな声を聞いてFCVの車種拡大を検討したい《と話す。

 かつて「性能低下を抑えて厳しい排ガス規制をクリアし、燃費もよい《と評されたホンダ車だが、現在エコカー分野をリードするのは1997年にHV「プリウス《、14年末に本格的な量産FCV「ミライ《を発売したトヨタ自動車だ。「ミライ《の車両価格は約730万円と高価だが「現在の紊期は3年待ち《(同社)と予想を超える人気ぶり。トヨタは16年に生産能力を年2000台として需要に対応する考えだ。

 市場のニーズに対して国内では日産自動車、海外でも独フォルクスワーゲン(VW)や独BMWなどの欧米勢がエコカーの拡大を打ち出しており、競争は激しさを増している。

 競争を勝ち抜くカギは開発資金だ。最近では将来主流となる自動運転車の開発に向けたソフト開発など新たな研究案件も増えており、自動車メーカーの資金需要は高まるばかり。ホンダの15年度の研究開発費は前年度比1割増の約7400億円。14年度実績ではトヨタの1兆円には及ばないものの、日産自の5061億円やマツダの1084億円を大幅に上回る高水準だ。ホンダの場合は昨年本格的に事業参入した小型航空機事業や、祖業の二輪、汎用発電機など幅広い製品群を持つが、研究開発に経営資源を集中するうえではネックとなる。

 こうした中でホンダは生産台数の増加による収益拡大を狙ったが、伊東孝紳前社長が12年に打ち出した四輪車の販売目標(16年度600万台以上)に対して15年度見通しは474万台程度にとどまる。北米やアジアでの好調な販売が寄与して16年3月期の連結営業利益は前期比2%増の6850億円(国際会計基準 )を見込むが、過剰設備などの固定費 負担が大きいこともあり利益水準では2%増の2兆8000億円となるトヨタや、24%増の7300億円となる日産自の後じんを拝する。八郷体制ではこうした拡大路線を改め、現状の生産と販売のギャップを埋める「身の丈経営《に徹する方針を打ち出した。各地域の需要に現地生産で対応する硬直的な体制を一新して、地域間で生産を補完する柔軟な体制に移行し、増強した工場の稼働率を高める施策を進める。

 野村証券の桾本将隆アナリストは「今後は生産拡大のための設備投資が一巡する。設備投資費用の減少分を研究開発費に投入して開発力を高めることができる《と、今後のホンダの将来性について前向きな見方を示す。ただホンダにとって経営拡大をやみくもに追うことなくどうやってコスト競争力を高めるかは今後の重大な課題だ。

 同じ程度の企業規模の日産自は提携先の仏ルノーと開発、生産、調達分野などの統合を進めて18年に両社で14年比4割増の約6800億円のコスト削減効果を見込む。ホンダの峯川尚専務執行役員は「(FCVの普及のためには)トータルでコストダウンしないといけない。ホンダ単独ではなかなかコストを下げることはできない《と話す。米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携し次世代燃料電池システムの開発にも乗り出している。20年ごろのシステムの商品化に向けて生産や部品調達の協業も広がりそうだ。合従連衡が進む自動車業界で、資本関係では独立主義を通すホンダだが、環境など次世代技術の中で米GMとの協業のように、コア技術では自社の優位性を確保しながら開発や生産でのメリットを享受できる提携・協業戦略のかじ取りには細心の注意が必要になりそうだ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 後藤宏光〕

《追記》
☆本田技研工業情報 「新型燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL《を発売 〜ゼロエミッションビークルで世界トップクラスの一充填走行距離約750kmを実現〜《ここをクリック

nikkei.com(2016-03-10)