燃料電池車、開発を加速 ホンダとGM、新工場検討


 ホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)が、燃料電池車(FCV)の量産に向けた一歩を踏み出す。開発や生産で協力し、コストを下げる作戦だ。急ぐ背景には、世界的に進む環境規制の強化がある。FCVの量産で、インフラ整備も後押しする。

 「FCVが本当にもうかるのは2025年以降だろう。インフラ が十分にできれば、プラグインハイブリッド車(PHV)より安くできる」

 FCVの今後について、ホンダの三部敏宏執行役員は朝日新聞の取材に語った。電気自動車(EV)とガソリン自動車の二つの機構を持つPHVより、FCVの方が開発や生産のコストの「下げしろ」が大きいとみている。

 ただ、実現にはFCVの効率的な量産化が欠かせない。特に高価な基幹部品の燃料電池で急ぐ必要がある。ホンダがGMと燃料電池工場の新設を検討するのは、両社で同じ燃料電池を使えば量産効果が大きくなるためだ。

 燃料電池は、「セル」と呼ばれる薄い板状の部品を約400枚重ねてつくる。この量産技術の確立や触媒に使う希少な白金の高価さなど、ハードルもある。今後、こうした課題にホンダとGMは取り組むことになる。

 一方、生産した燃料電池を載せるFCVの量産についても、布石はすでに打っている。ホンダは今年3月に独自開発の新型FCVをリース販売する。トヨタ自動車の「ミライ」より投入が1年遅れてでもこだわったのが、ほかの車との「車台の共有化」だ。

 新型FCVは、燃料電池システムを小さくし、ボンネット下に収まるようにした。2018年には燃料電池の代わりに別の駆動システムを載せ、北米に投入するPHVとして展開する。同じ車台の車が増えれば、台数がまだ少ないFCVも工場の量産ラインに流せる。ここでも生産コストを抑えられる。

 ■強まる環境規制

 他社もFCVの開発や量産を急ぐ。

 トヨタは東京五輪のある20年をめどに単独でFCVの世界生産台数を年700台(15年)から3万台に増やす計画だ。既存の「ミライ」より小さな燃料電池を開発し、工場の量産ラインで流せるよう車の設計も見直す見通しだ。日産自動車も、米フォードや独ダイムラーと燃料電池の開発で協力している。独アウディは、FCVの試作車を北米国際自動車ショーで披露した。

 背景には、米国や欧州、日本などで自動車の環境規制がより厳しくなることがある。特に米カリフォルニア州では、大手メーカーは排ガスを一切出さない車を必ず一定割合売らなければならなくなる。すでに普及が始まるEVでもクリアできるが、一度の充電で走れる距離が限られる。

 そうした弱みのないFCVに期待がかかるが、水素を補給するスタンドの設置は進んでいない。FCVが普及しないと、事業者も安心して建てにくいからだ。主力市場になりそうな米国で設置が進まないと、普及はおぼつかない。ホンダの三部氏は「GMと組んで『これだけFCVを出す』と言えば、エネルギー業界も動いてくれる」と述べ、ここでもGMとの提携をてこにしたい考えだ。(榊原謙、大日向寛文)

asahi.com(2016-01-16)