ホンダ、ようやくかかった復活のエンジン

 ホンダに復活の兆しが見えている。2015年末に発表した11月の国内生産台数は実に16カ月ぶり、国内販売台数も14カ月ぶりにプラスに転じた。最高益の更新が相次ぐ自動車各社の中で「1人負け」だったホンダだが、ようやくエンジンがかかってきた。2016年、ホンダは市場の信頼を取り戻すことができるだろうか。

 先月25日に発表された11月の国内生産と販売実績。ホンダは生産が前年同期比16.7%増の7万2416台、販売が同3.3%増の5万3165台とプラスに浮上した。生産・販売の双方で、これだけ長く前年割れが続いていたのはホンダだけだ。

 この1〜2年、ホンダは好調な自動車業界の中で逆風にさらされ続けてきた。13年秋に投入した3代目の新型「フィット」で相次いだリコール(回収・無償修理)による顧客離れ、そしてタカタの欠陥エアバッグ問題では自動車メーカーで搭載台数が最も多く、巨額のリコール費用が発生した。せっかく円安が進んだのに、過度な海外生産移転で、その恩恵も受けにくかった。

 この3つがホンダ固有の課題として収益の重荷になった。国内の自動車大手7社で15年3月期か16年3月期予想のどちらかで、純利益が過去最高を更新できないのは、ホンダだけだ。

 国内生産・販売のプラス転換は、ホンダが抱える3つの課題のうち2つに解決のメドが付きつつあることを意味する。販売の増加はリコールによる顧客離れの影響が底を打ったと判断できる。ホンダも来期の国内販売計画は「今期並みプラスアルファ」(峯川尚専務執行役員)と、ようやく攻勢に転じる構えだ。2月には上級ミニバン「オデッセイ」で初となるハイブリッド車(HV)を投入するなど新型車の投入で巻き返しを図る。

 そして生産の増加は真の最適生産体制に向けた改革の進展を裏付ける。ホンダは過去の超円高局面で、自動車メーカーの中でも先んじて海外生産の強化を進めてきた。前期時点で輸出比率は3%まで下がっていた。

 アベノミクスで円高が修正されると、この戦略は裏目に出る。トヨタ自動車や富士重工業などのように円安の恩恵を受けられなかった。トヨタや富士重は国内販売の低迷を輸出の増加で補い国内工場の稼働率を高水準に保っているが、ホンダは国内工場で減産を強いられ、固定費負担の増加を招いた。

 ホンダは昨秋から米国向けフィットの生産をメキシコから日本に戻すなど対策を打ち始めた。需要地に近いところで生産するのがいいのはもちろんだが、為替変動や国内工場の稼働率という要素を加味したものが、真の最適生産体制になる。輸出を増やした結果、国内生産のプラス転換につながった。

 残る課題であるタカタのエアバッグ問題はまだ不透明だ。とはいえホンダはエアバッグのリコールに関して他社より保守的に会計上の引き当てを計上している。今後、タカタとの交渉で一定の補償を受けられることになれば、過剰な引き当て分が来期以降に戻り益となって返ってくる可能性がある。今後、タカタ問題はホンダの収益をさらに圧迫する要因には、なりにくい。

 今年はホンダの復活が自動車業界で大きなテーマになってもおかしくない。市場予想の平均値であるQUICKコンセンサスでも、17年3月期のホンダの純利益見通しは、遅ればせながら最高益を更新するという予想になっている。

 株価の復活にも期待できるかもしれない。市場では「業績回復への期待が、まだ十分に株価には織り込まれていない」(独立系ファンドマネジャー)との見方が多い。15年の年間騰落率を見るとホンダ株は11%の上昇だった。日産自動車(21%上昇)には劣るがトヨタ(1%下落)よりはパフォーマンスがいい。ただ、過去2年間の株価騰落率で見ると、トヨタが17%上昇、日産が45%上昇したのに対し、ホンダは10%の下落になる。

 ホンダの復活が本物なら投資家の関心を集めるのは確実だ。今年はホンダ株が復活を果たし快走する1年になるのか、期待が高まっている。
(奥貴史)

nikkei.com(2016-01-04)