ホンダ、セスナに挑む 米でジェット量産へ

居住性、飛躍のカギ

 ホンダは小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」の量産に入る。10日(米国時間9日)、米連邦航空局(FAA)から安全性のお墨付きとなる型式認証を取得したと発表した。1986年に開発を始めてから30年、先行する米セスナやブラジルのエンブラエルに挑む。速度、高度、居住性での優位性を実現した独自の設計と技術。その底流には今も創業者のこだわりが息づく。


 米ノースカロライナ州グリーンズボロにあるホンダジェットの工場。型式認証取得の記念式典が開かれた会場は熱気に包まれていた。航空機事業を担うホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格社長が登壇すると、2000人を超す出席者が総立ちで拍手を送った。

 「歴史的なマイルストーンだ」という藤野社長のあいさつに関係者から歓声が上がる。ビジネススーツや白い作業着が入り交じる会場では30年に及ぶ開発の成果を各人がかみしめていた。

 全米航空機製造者協会(GAMA)によると、2014年の世界のビジネスジェット機市場は約220億ドル(約2兆6800億円)と13年比で4.5%伸びた。リーマン・ショック後に落ち込んだものの、経済の回復とともに北米を中心に需要は拡大。航空電子部品大手の米ハネウェル・インターナショナルは25年までに世界で新たに9200機、2700億ドルの需要があると予測する。

 乗員を含む7人乗りのホンダジェットは超小型機「ベリーライト」に分類される。ライバルはセスナの「サイテーション・マスタング」やエンブラエルの「フェノム100」だ。3機の航続距離はニューヨーク―シカゴやロンドン―ローマの片道運航が可能な2200キロメートル前後で拮抗する。

 価格は1機450万ドルでホンダジェットが最も高くなるものの、ベリーライトのクラス平均を2割近く上回る燃費性能では群を抜く。最大時速、機体の安定につながる最高巡航高度もクラス最高水準に位置し、藤野社長は「機内の静かさや広さなども総合的にみれば、競争力はある」と自信をのぞかせる。

 08〜14年の販売実績はサイテーション・マスタングが408機、フェノム100は318機。実績ゼロにもかかわらず、ホンダジェットはすでに100機以上の受注を獲得している。年内にも1号機を北米の顧客に納入し、16年は年間50機を生産する。17年以降の早い段階で年間最大100機まで引き上げる。航空機事業としては5年後の単年度黒字を目指し、中古機の整備会社などを対象にエンジンの外販も検討する。

 藤野社長はホンダジェットについて、「新しいモデルというよりも新しい技術で新しい価値を生む飛行機をつくった」と胸を張る。その根本にあるのはホンダのDNAとなっている創業者、本田宗一郎氏のものづくりへのこだわりだ。

 最大の特徴である居住性の高さには「人間部分は最大限に広く、機械部分は小さく」というホンダの哲学「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」が見て取れる。対面式の乗客スペースは向かい合う座席の背もたれの間が2メートル18センチと競合機よりも15〜20%広く、大人4人がゆったり座れる。ベリーライトでは珍しい個室トイレも備えた。

 そもそも機内に広い空間を捻出した主翼の上にエンジンを配置する独自設計も「世の中にないモノを作る」という創業者の哲学を受け継ぐ常識破りのたまものだった。

 型式認証の取得は航空機事業のスタートラインであり、「ベリーライトでシェア30%以上」の目標達成には納入後の顧客の満足度と運航の実績が問われる。ライバルのセスナはすでに世界中に整備拠点を設け、緊急時の補修や運航管理の支援などノウハウ蓄積でも先行する。ホンダジェットは一気に巡航高度に到達できるのか。運航のコンサルティングや整備、部品供給といったサービスの構築が課題になる。

(工藤正晃、グリーンズボロ=中西豊紀)

nikkei.com(2015-12-10)