「GMと提携拡大を検討」 八郷隆弘ホンダ社長

電動化や自動運転技術で協力

 ホンダの八郷隆弘社長は15日、日本経済新聞のインタビューに応じ、米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携の範囲を広げる検討に入ったことを明らかにした。2013年に提携した燃料電池車(FCV)の中核技術に加え、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの電動化技術、自動運転技術での協力を視野に入れる。主なやりとりは以下の通り。

 ――GMとの提携の進捗と今後の見通しは。

 「GMとは次世代FCVのシステム開発で非常にうまくいっている。(ホンダの開発子会社である)本田技術研究所もGMとの協業を前向きにとらえている。新たに何ができるか探っており、FCVにとどまらず、電動化やIT(情報技術)、自動運転などで一緒にやれることがあれば考えたい。ガソリンエンジン技術については自分たちでやっていけると考えているが、電動化などでは弱い部分を補完することで相互にメリットが出せる」

 ――現在の販売状況と市場の先行きをどうみていますか。

 「国内市場は2014年4月の消費増税や15年春の軽自動車増税の影響で厳しい。今後も市場は大きく伸びず、ホンダは現状の14%プラスアルファのシェアを目指していく。中国は市場環境は厳しいものの、多目的スポーツ車(SUV)『ヴェゼル』や兄弟車の『XR−V』が好調だ。16年は『シビック』などを投入予定で、100万台の販売を狙えるところまできている」

 ――ホンダは生産能力の拡大に販売台数が伴わないことが課題になっています。

 「16年3月末のグローバルでの生産能力は560万台程度になる。15年度の販売計画は478万台だから、ざっくり80万台の開きがある。北米や中国での販売が好調な一方で、国内やアジア・太平洋地域は苦戦しており余剰感がある。国内生産分は北米などへの輸出で差を埋め、タイは生産ライン2本を交代のない1直勤務体制に切り替えるなど、各地域で生産を調整する」

 ――生産能力と販売のギャップを埋めるにはどれくらいかかりますか。

 「1〜2年ではできない。年間5%ずつ販売が伸びると仮定しても4〜5年はかかる。この期間をどう縮めていくかが私たち経営陣の課題だ」

 ――商品力や研究開発を強化するためにどのような手を打っていきますか。

 「世界6極体制のもと、各地域ごとの車種や仕様の数を増やした結果、開発部門の負荷が高まった。各地域と相談しながら、専用車や派生車の数を適正化していこうと考えている。部品のモジュール化や共通化も進めて開発負担を軽減し、浮いた分を商品力を高めるための研究開発に割く。研究開発の組織のあり方も見直す。規模が大きくなるにつれ、縦割り組織になりがちだった。開発、生産、購買の担当者が横断的に動けるチームを目指す」

 ――ホンダは今後、巨大メーカーを目指すのでしょうか。それとも規模は小さくても個性の強いメーカーを目指すのでしょうか。

 「ある程度の車種をそろえることと、特徴のあるとがった製品をつくることの両方に取り組まなければならない。ホンダには二輪車『スーパーカブ』や小型車『シビック』など、個性があり世界中で愛されるクルマ、モビリティーがある。いま一度、顧客に愛され、世界中で認知されるクルマを出す」

 ――規模を拡大しながら個性的なクルマをつくることは難しくありませんか。

 「量販車でも特徴のあるクルマをつくることはできる。例えば軽自動車『N−BOX』は、軽では誰もやろうとしなかった、燃料タンクを車体中央に配置して車内空間を広げるアイデアを実用化した。消費者はホンダに特徴ある商品を期待している。『トヨタ自動車と同じことしかできませんね』となったら存在価値は無くなる」

 「失敗を恐れていては商品開発にとがった部分が無くなっていく。かつては三振になってもいいからホームランを狙えという文化があったが、企業として成熟するにつれて、そうした姿勢が薄れた。とがるには割り切りも必要だ」

 「現在の厳しい状況を乗り越えるのが私の使命。現場は日々いい商品をつくるための努力をしている。失敗するなというのはダメ。経営側がある程度リスクも考慮した事業計画を練って、開発陣が動ける環境をつくる」

 ――独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題をどうとらえていますか。

 「法規をクリアする技術については、ガバナンス上、それをチェックする仕組みを入れなければならない。なぜあのようになったか理解できない。ホンダはチェック体制を敷いている。今回のことで自動車業界全体に問題があるようにとらえられてしまうことは残念だ」

nikkei.com(2015-10-16)