なぜホンダは原付バイクを日本製に戻すのか
国内の生産比率は8割まで上昇へ


 ホンダが2輪生産で国内回帰に大きく舵を切った。9月11日、中国やベトナムで9割以上を生産している50ccの原付バイクの大半を、2016年度末までに日本に戻すと発表。背景には、円安に加えて、現地の人件費が上昇しており、海外生産の利点が薄れていることがある。

 メイド・イン・ジャパンに切り替えるのは、10月からフルモデルチェンジして発売する「ジョルノ」だ。もともと中国で生産していたが、11日から、国内唯一の二輪生産拠点である熊本製作所で新型車の生産を始めた。年間生産は1万8000台を計画。エンジンはベトナムから輸入するため、国内産の部品比率は24%(金額ベース)とまだ低いものの、今後、順次高めていく方針。エンジン生産の国内移管も検討している。

 青山真二・二輪事業本部長は、「為替の変化もあり、日本で生産してもお求めやすい価格を実現できる」と当日の発表会で語った。かつてホンダは原付バイクの多くを日本で生産していたが、2000年代初頭から生産コストの低い中国やベトナムでの生産に切り替えた。今回、生産を日本に戻すジョルノも2011年のモデルチェンジから中国に生産を移した。だが、円安が進んだことで、日本への輸入コストが上昇していた。

 今年1月に発売した新型「タクト」の発表会の場でも、青山二輪事業本部長は、「経済合理性がある中で、為替の状況をにらみながら、熊本で生産するのはありだと思う」と話しており、海外生産を取り巻く環境が変わる中、国内回帰は時間の問題だった。排気量50ccの原付バイクを販売しているのは日本だけ。部品の調達や物流、生産を含めたトータルのコストで見合えば、国内生産でも割に合うというのが今回の判断だ。

 正式な価格は10月に発表されるが、新型ジョルノの価格はスタンダード車種で20万円を切るという(旧型は17万7120円〜)。新型には空冷式に代わって燃費性能に優れた水冷式のエンジンが搭載されるため、旧型との単純比較はできないものの、実質的な値上げ幅は抑えた格好だ。

 ジョルノに続いて、昨年、12年ぶりに新型車として投入した「ダンク」や今年1月、16年ぶりにネーミングを復活させて売り出した「タクト」といったほかの原付バイクも、2016年度末までに現在のベトナムから日本に生産を戻す。これにより国内生産台数は約7万台分増え、年間約10.6万台の出荷台数のうち、国産比率は8割まで高まる。ダンクとタクトを引き上げることで、ベトナムで原付の生産はなくなるが、年間250万台の生産能力の中での5万台程度であり、大きな影響はないという。

 原付バイク生産の国内回帰は”地産地消”ともいえるわけだが、熊本製作所の稼働率を引き上げたいというホンダの思惑も見え隠れする。同拠点では現在、利幅が大きい中・大型のバイクを中心に、生産の8割を海外向け、2割を国内向けに生産している。だが、2008年に約31万台だった生産台数は、国内市場の縮小で2014年に約15万台と半減。2015年上半期(1〜6月)も前期比約2割減の約6万3000台と、減少傾向に歯止めがかかっていない。

 2008年に新工場として完成した当時、熊本製作所の生産能力は50万台あった。その後の需要減少を受けて、2013年度に能力を16万台まで引き下げている。今後、50ccの原付バイクの生産を行うため、生産能力は25.5万台まで増やす。ジョルノに続いて、タクトやダンクの生産が国内に移管されれば、期間雇用の従業員も100人以上増える見通しだ。

 50ccの原付バイクはホンダの国内2輪販売の半分を占めるメインカテゴリーだが、単価が安いこともあり、大型車と比べると収益の貢献度は低い。海外生産のメリットが薄れたとはいえ、国内回帰が大幅なコストダウンにつながるわけではなさそうだ。

 むしろ2輪事業における重大イベントは、2015年末に欧州で発売し、熊本製作所で生産する大型ツーリングバイク「アフリカツイン」だろう。初代がデビューしたのは1988年。オフロードでの耐久性と高い操作性が受け、歴代モデルは世界で高い人気を誇った。新型車にはこの10年間、オンロード・オフロードモデルで開発に取り組んできた技術がいくつも詰め込まれているという。

 今年就任したホンダの八郷隆弘社長も「アフリカツインでホンダらしさを体感できる商品をお届けしていく」と、7月の会見で自信を見ている。欧州での希望小売価格(税込み)はスタンダードモデルで1.21万ユーロ(直近の為替レートで165万円)を予定。今後、北米や日本などでの販売を計画しており、皮切りとなる欧州販売の動向は大きなポイントだ。

 多くの日本企業が海外生産を増やしてきた中、今回、ホンダが原付を国内生産に回帰させるのは、象徴的な出来事ではある。ただ、現実的な収益の拡大と国内生産活性化は、ブランドイメージを牽引し、かつ利幅の大きい中・大型車の販売を国内外でどれだけ伸ばせるかにかかっている。

msn.com(2015-09-21)