ホンダの旗艦HVセダン、高級車としては割安感
ホンダ「レジェンド」

 ホンダはハイブリッド車(HV)旗艦セダン「レジェンド」の新型を2月20日発売した。1985年の初代以来の5代目でモデルチェンジは2004年以来。車体前部に1つ、後部に2つ配置したモーターと3.5LのV型6気筒SOHCエンジンを組み合わせたHVシステム「SPORT HYBRID SH−AWD」は、走行状況に応じて前輪駆動、後輪駆動、四輪駆動を使い分け、EV(電気自動車)モードからエンジンドライブまで3つの走行モードを自在に切り替える。システムの最高出力は382馬力、最大トルク463N.mと動力性能は十分で2000kg近い車重を全く感じさせない。

 7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を採用、パドルシフトで変速操作も楽しめ、アクセル操作などへの反応を速めた「スポーツモード」も備えた。燃費は16.8km/L。運転を支援するためのセンサーにはミリ波レーダーと単眼カメラを核に、超音波センサーやマイクロ波レーダーも搭載。安全装備パッケージ「ホンダ センシング」は、歩行者も認識する自動ブレーキや車線維持支援システムなどを備える。渋滞追従機能付きのクルーズコントロール、駐車時の障害物検知などの「パーキングセンサーシステム」なども装備。速度などを運転席前に投映するヘッドアップディスプレー、渋滞予測などの機能を盛り込んだ「インターナビ」対応のカーナビも標準搭載した。1グレードのみの設定で価格は680万円、販売目標は月間300台。

■研究員の視点「くせ感じない圧巻の走り、制御技術で安全性高まる」

 500万円を優に超える高級車でもグレードを細分化し、下位グレードにはカーナビなどの装備をはずしたり、格下の安全装備を付けたり、目玉機能をはずしたりしてのオプション消費狙いが目につく昨今。ホンダも最近は小型車などで、価格の高い上位モデルを選びたくなる絶妙のグレード設定が光っている。その中で、「レジェンド」では、これだけの装備を標準搭載しての1グレード設定だ。走行感については、ホンダの技術者が「まるで運転がうまくなったかのように錯覚する」と語る意図がよくわかる。それなりの速度でも素直に癖なくコーナーリングできた。後輪駆動の欧州製高級セダンとは明らかに味わいが異なる。

 SH−AWDシステムを核とした制御技術で、曲がりはじめは「内側前輪に軽いブレーキをかけ」、旋回中には「路面の凸凹に応じてきめ細かにブレーキ制御」、脱出時には「アンダーステアを抑制する」など下手な操作を補うのだ。クルマが勝手に曲げてくれる感じで、面白みに欠けるといえなくもないが、安全性は格段に高まる。

 内装に目を転じるとドライブモードや後退、電子制御パーキングなどの基本操作のスイッチは、運転席左側に存在感大きく据えられている。高級車ではこういった装備は控えめなものが目立つなかで異色だ。音響システムは米クレル社と専用開発し、高音域まで繊細に再生するなど装備は充実し、日欧の同格の高級車に比べ割安感がある。ホンダの考える高級セダンが、ホンダファン以外の高所得者層にどう受け入れられるか、注目される。

■評価委員のコメント「走り、軽快でスポーティー」「プレミアム狙いならブランド構築必要」

 「ホンダらしく走行性能を犠牲にすることのない上質なHVであり、ホンダの技術力を示す車だ。ただ価格はメルセデス・ベンツ日本のEクラスやBMW5シリーズ並みとなり、購入可能な消費者は限られる上、ホンダというブランドに求められる価格帯を超えてしまっていると思う。欧州プレミアムカーのレンジを狙うのであれば米国で展開しているアキュラを持ってくるなど、性能だけでなくブランドイメージ構築が必要だ」(同業他社委員)

「進歩的なメカニズムや装備を積極的に採用し、厳しい目を持つホンダファンでも十分に納得するフラッグシップモデルに仕上がっている。高級ハイブリッドセダンながら、ホンダらしいこだわりが随所に感じられるのも魅力だ。目標の月販300台は当面、クリアできるだろう。ただこの分野はメルセデス・ベンツやBMW、レクサスなどの圧倒的な強みを持つクルマがそろっているため、長く維持するのは難しいかもしれない」(流通委員)

「走りはとても爽快でスポーティー。特にカーブでのライントレース性に優れ、大柄な上級セダンとは思えないような軽快な走りを実現する。大きすぎる車体だが、その分だけ後席の居住空間が広い。内装のラグジュアリーな仕様や安全装備なども考えると価格はリーズナブルとみることもできる。ただホンダの高級車ユーザーの保有母体はあまり大きくないので、1年後には存在が忘れられていることにもなりかねない」(学識委員)


 メルセデス・ベンツ日本の「Eクラス」(2月受注開始の「E400アバンギャルド」など2車種と4月受注開始のディーゼルエンジン搭載車は、評価時点では販売されていなかったため対象外)。3.5LのV型6気筒直噴エンジンと7速AT(自動変速機)を組み合わせた「E300」、4.7LのV型8気筒ターボエンジンを搭載する「E550アバンギャルド」(最高出力408馬力・最大トルク600N.m)、最高出力557馬力・最大トルク720N.mの「E63AMG」など幅広い品ぞろえ。2014年10月に安全運転支援システム「レーダーセーフティパッケージ」などの装備を充実させた。

「新製品 解剖」では、注目の新製品を、同業他社や販売店の担当者、評論家など3〜5人の専門家が評価。新規性など12項目で競合製品(ベンチマーク商品)と比べた優劣を「非常に優れる」(6点)から「同等」(3点)、「非常に劣る」(0点)までの7段階で各専門家が採点し、その平均を算出しています。天気のイラストで表す「ヒット予報」も各専門家の評価を平均した結果です。製品力と販売力は、各評価項目の平均得点を基に★の数で表記(満点なら5つ)。その製品力と販売力を発揮した場合に期待できる売上高の理論値を商品力指数(ベンチマーク商品=100、最大400)として示しています。  

nikkei.com(2015-05-15)