真っ暗でも発電、太陽電池が驚く進化 製造も容易

 太陽電池といえば屋根の上や広い敷地が活躍の場だ。たくさんの電気を作るには、屋外の日当たりの良い場所に置くのが常識だった。ところが今、室内でスマートフォン(スマホ)を充電できるぐらいに進化した太陽電池が登場した。これまでにも太陽電池付きの電卓などはあるが、技術は急速に進歩している。

■人の目には見えない赤外線で発電

 研究開発型ベンチャーの国際先端技術総合研究所(東京・港、小松信明社長)は2014年12月、ほぼ真っ暗な室内でも効率よく発電する太陽電池を開発した。早稲田大学の逢坂哲弥教授らの協力を得た。

 試作した7センチ角の太陽電池を使って実験。ろうそくの明かりがともる程度の14ルクス(ルクスは明るさを示す単位)という極めて暗い場所に置いても、電池につなげた小型の発光ダイオード(LED)が点灯することを確認した。

 電池を1メートル角に大きくして先の実験より少し暗い10ルクスの中に置いた場合、計算では8時間の充電でラジオを2時間ほど動かしたり、スマホの待ち受け時間を3時間ほど延ばしたりできる量の電気を作れるという。壁全体に貼り付ければ、さらにたくさんの電気を生み出せる。

 「人間には真っ暗だが、室内を飛び交う人の目には見えない赤外光(赤外線)で発電している」と、開発を担当した伊藤朋子常務は説明する。壁や人が蓄える熱エネルギーから発する赤外光が太陽電池に当たって電気が発生する。

 今回開発した太陽電池は「色素増感型」と呼ぶタイプ。色素が赤外光を含む光を吸収して発電する。現在主流のシリコン系に代わる太陽電池として期待されているが、光を電気に変えるエネルギー変換効率が低いことが課題だった。国際先端総研は水晶の微粒子を電極に貼り付ける特殊な技術で、赤外光を吸収しやすくした。

 「発表から間もないが、大手企業だけでも十数社から問い合わせを受けている。電機、自動車、化学、住宅、警備など業種は様々だ。中学や高校、スマホのアクセサリーメーカー、植物工場からも電話やメールが相次いでいる」と小松社長は反響の大きさに驚く。

 スマホの電池残量を気にする人が増えていることに加え、室内で様々なセンサーが使われるようになり、充電ニーズが高まっているためとみている。5月の大型連休明けには名刺サイズの試作品をサンプル出荷し、用途を開拓する。自社ではさらに性能を高める研究を続ける一方で、年内にはライセンスを供与するビジネスを始める。

■屋外でもシリコン超える可能性も

 「まだ基礎実験の段階だが、小さな試作品で20%以上の変換効率を出した。シリコン太陽電池を超える可能性もある」

 東京大学の瀬川浩司教授は木下卓巳特任助教らと共同で、高効率の有機系太陽電池を開発した。有機材料で作る色素増感型と、「ペロブスカイト型」と呼ぶ一部に無機材料も使う有機系太陽電池を組み合わせた。屋外実験ではシリコンを超えるデータも得られた。

 シリコン太陽電池はすでに大量生産技術が確立されて普及している。有機系などの新タイプが登場しても、シリコン太陽電池が活躍する分野に入り込むのは容易ではない。

 「有機系がシリコンに勝るのは暗くても効率が下がらないこと」と、瀬川教授は強調する。

 シリコン太陽電池は暗くなるに連れて変換効率がどんどん下がる。暗くなると光量が落ちる以上に発電量が急激に少なくなってしまう。一方、有機系は明るさにかかわらず、変換効率はあまり変わらない。このため、暗くなると光量に応じて発電量は減るものの、それなりの電気を確保できる。

 色素増感型とペロブスカイト型を組み合わせたのは理由がある。それぞれ得意な光の波長域が異なり、より幅広い波長域に対応し、効率よく電気を作り出すためだ。

 具体的には、色素増感型は波長約400ナノ(ナノは10億分の1)メートルの可視光(紫色)から約1000ナノメートルの赤外光を電気に変換する性能が高い。一方のペロブスカイト型は約350ナノメートルの紫外光から約780ナノメートルの可視光(赤色)の範囲を得意としている。

 両型が重なる400〜780ナノメートルの可視光の波長帯はペロブスカイト型が受け持つ形にした。この波長帯ではペロブスカイト型の方が性能が高く、シリコンよりも高い電圧になり、電気をたくさん生み出すからだ。

 有機系の長所は、大がかりな製造装置がいらないこともある。シリコン太陽電池が真空装置を使う半導体製造工程で作るのに対し、有機系は製造工程の多くを印刷技術でまかなえる。将来は中小の町工場でも作れるようになるとみられる。

 作りやすさや利用価値を示すためにも瀬川教授は装飾品のような太陽電池を作って各地で紹介している。ステンドグラス風の盾や立方体の太陽電池を作った。立方体タイプはリチウムイオン電池などを内蔵し、電気をためてスマホを充電できるようにした。

■大手企業も参入、太陽電池でパソコン動かせる時代も?

 安価に製造でき、室内でも使える色素増感型太陽電池の開発は実は10年以上前から始まっている。当初は効率が数%と低かったが、ようやくシリコン太陽電池の約18%に迫る性能がみえてきた。

 リコーは14年6月、室内での性能が優れた色素増感型太陽電池を開発した。室内の標準的な明るさである約200ルクスで、従来の太陽電池であるアモルファスシリコン型の2倍以上の電力を発生する。電極間に挟む電解質を従来の液体から固体に変え、安全性を高めた。液体を使うこれまでの色素増感型と比べても約1.6倍発電するという。

 田中貴金属工業は1月、瀬川教授らが開発した波長1000ナノメートルの赤外光まで利用できる色素の製造とサンプル出荷を開始した。

 積水化学工業は14年9月、軟らかな透明樹脂基板を使う色素増感型太陽電池を開発した。硬い基板を用いる従来型に比べれば効率は少し低いが、軟らかく曲面のある場所にも貼れる。室内の壁や天井に組み込める利点を生かし、今年から建材メーカなどへの売り込みを始める。

 太陽電池の高効率化と併せて、電子機器の省電力化が進んでいる。いずれ、電卓と同様にパソコンや家電も機器に貼り付けた太陽電池だけで使えるようになるかもしれない。

(科学技術部 黒川卓)

nikkei.com(2015-02-23)