創意と情熱、空を走る 鋭い機首、ハイヒールから着想 ホンダジェット

 初めて日本に飛来したホンダの小型ジェット機「ホンダジェット」は、室内の広さや最高速度、燃費などで海外メーカーを上回る高性能が売りだ。開発スタートから29年の間には計画打ち切りも検討されたが、独創的な技術で困難を乗り越えてきた。ビジネスとしての視界も良好だ。

 23日午後2時半ごろ。羽田空港の滑走路に、赤と白に輝く機体が舞い降りた。空港展望台に陣取った数百人の報道陣や航空ファンからは「かわいい」「やった!」と歓声が上がった。

 鋭くとがった機首、翼の上に置かれたエンジン。ホンダジェットの性能を決定づける二つの特徴だ。いずれも、1986年の研究スタート時から一貫して携わってきたホンダの航空事業子会社「ホンダ・エアクラフト・カンパニー」の藤野道格(みちまさ)社長(54)の発想だ。

 機首のデザインがひらめいたのは、ハワイの免税店だった。飾られていた高級ブランド「サルヴァトーレ・フェラガモ」のハイヒールが目に入った。かかとから鋭いつま先に連なるデザイン。「美しさと人間工学を両立させている」と感動し、機体の形状に生かして空気抵抗を低減した。

 苦労もあった。96〜97年には、商業化の見込みが立たないとして事業の打ち切りが検討された。藤野さんは、翼の上にエンジンを置くことで客室を広げ、機体も軽量化する斬新なアイデアを描いたスケッチを手に経営会議に乗り込んだ。「これなら売れる」と経営陣も納得し、正式なプロジェクトとして認められた。

 ホンダジェットはライバルとなる海外メーカー製より最高速度は1割速く、2千フィート(約600メートル)高く飛べる。室内は2割広く、燃費は17%いい。記者会見で藤野さんは「感無量だ。競争力、信頼性とも圧倒的なものができた」と話した。

 ■欧米中心、受注100機超

 ホンダジェットは、数カ月後をめどに米連邦航空局(FAA)の最終的な認証を得て、1号機を納入する予定だ。すでに100機以上の注文があり、米ノースカロライナ州の工場ではフル生産が続く。「今注文しても、納入まで2年近くかかる」(ホンダ幹部)という人気だ。

 生産能力は年100機程度になる見通し。飛行機は一つのモデルを改良しながら数十年にわたり販売を続けることもあるため、量産に入ればもうけを出しやすい。順調に年100機近い受注が続けば、数年で黒字化できる見通しという。藤野さんは新機種の開発について「航空事業に参入した以上は、なんとかやっていきたい」と話した。

 顧客の中心は米国や欧州の会社経営者らで、日本では販売していない。ただ藤野さんは「日本からの問い合わせも多い」として、将来的に日本を含むアジアでの販売も視野に入れる。
 (大畑滋生、榊原謙)

《追記》
☆本田技研工業情報 「HondaJet 日本で初公開」を発売 〜新開発の直噴1.5L VTEC TURBOエンジンを搭載〜」ここをクリック

asahi.com(2015-04-24)